鹿島美術研究 年報第32号
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ある庶民の姿を盛り込んだ点に、具慶画の特色の一面を垣間見ることができる。そのような特色に、物語絵などの古典的な画題のみならず、洛中洛外図などの風俗的な主題の作品にも取り組んだ具慶の経歴、あるいは作品に潜む具慶の絵画観や制作意図がどのように反映しているのかについても、考慮する必要があろう。本研究では、土佐派や如慶による源氏絵の各図を本作品と比較することによって、物語表現の違いを明らかにし、さらに源氏絵以外の具慶作品における人物表現を詳細に観ることにより、具慶画の特徴を多角的に考察していく。それによって、従来の住吉派の形容詞である「鮮麗な彩色」や「精緻な運筆」だけにとどまらない、具慶の特徴をより明確にすることができるだろう。また、「源氏物語絵巻」の一場面にあえて庶民を登場させた、人々の現実的な生活を捉える具慶独自の目線に迫ることができるであろう。そのことによって、江戸期に活躍した住吉派の絵画表現の独自性、またさらには江戸前期の人物表現の傾向を探ることができ、江戸期の絵画史における住吉派の果たした役割を鑑みる上で、本研究は重要であると考える。研 究 者:武蔵野美術大学、首都大学東京 非常勤講師  沢 山   遼バーネット・ニューマンは、2000年代に入り、徐々にその活動と思想の全貌が明らかになりつつある作家である。2002年から翌年にかけてフィラデルフィア美術館とロンドンのテート・モダンで大規模な回顧展の開催があり、2004年には、研究者のリチャード・シフらを編集委員に迎えたカタログ・レゾネの刊行が実現した。また、日本においても川村記念美術館において2010年に本邦初の回顧展が開催されている。本研究は、以上に代表される近年のニューマン研究の成果をもとに、バーネット・ニューマンの絵画理論が、その実作の具体的な局面においてどのように実現されていたのかを明らかにしようとするものである。本研究は、国内で入手することのできる文献に当たり、ニューマンの思想的側面のリサーチを進めるとともに、アメリカでの実作の検分に基づくリサーチを行うことを予定している。海外での調査としては、ニューマンの作品を所蔵するニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、フィラデルフィア美術館などの各美術館と併設の図書施設において⑤ バーネット・ニューマンの絵画作品に関する調査研究

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