女の上に立つ兜跋毘沙門天の遺品の有無を確認するとともに、兜跋毘沙門天の図像的特徴を甲制や地天女といった各要素に分けて整理・分析する。さらに、毘沙門天以外の尊格の脚下に表される地天女に関しても、調査と図像収集を行う。例えば、兜跋毘沙門天の他に地天女および二邪鬼が表される例としては、ヒンドゥー教のヴィシュヌ神が知られる。そこで、こうした仏教以外の図像との関連も視野に入れ、兜跋毘沙門天の図像の成立について幅広い研究を行っていく計画である。第二に、日本に兜跋毘沙門天が請来された九世紀を中心とする遺品や文献を検討し、日本における兜跋毘沙門天の受容の様相を明らかにする。これについては、東寺講堂多聞天像が、地天女の上に立つ日本式甲制の兜跋毘沙門天の嚆矢であることに着目する。そして、こうした東寺講堂多聞天像の図像典拠を探求するとともに、空海による図像の再構成の可能性についても考察する。第三に、九世紀以降の兜跋毘沙門天の調査と図像収集を広く行い、図像・地域・信仰といった点から日本における兜跋毘沙門天の展開について追究する。日本の兜跋毘沙門天はいずれも地天女の上に立つが、その甲制に関しては鳥の宝冠・裾長の金鎖甲・海老籠手といった特徴を有するものと一般の神将形のものがある。これら二系統の兜跋毘沙門天を整理し、図像の相違点や地域的偏り、信仰との関わりを分析する。第四に、上記の兜跋毘沙門天の調査を通して、地天女の髪型・服制・坐法を検討し、女神像との共通点・相違点を整理する。これに基づき、地天女と女神像の図像の影響関係についても考究していく。以上、本研究により、日本における兜跋毘沙門天の受容と展開の様相が明らかになると期待される。さらに、兜跋毘沙門天を支える地天女と女神像の図像分析から、神像彫刻についても研究を進展させることができると考える。研 究 者:泉屋博古館 学芸課 主査 実 方 葉 子何よりも重要なことは、対象とする写生帖群が、近代京都画壇を牽引した一画家の画歴の前半生についてほぼ完備していることであろう。内容は風景、動植物、人物、そして古画縮模など多岐にわたり、年月日や場所、対象の名称など細やかな文字情報もしばしば添えられている。これらの調査研究を通じ、以下の3点について貴重な情⑪ 近代京都における日本画の学習と写生 ―木島櫻谷写生帖のデータベース化―
元のページ ../index.html#56