鹿島美術研究 年報第32号
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筆者の研究にとって要となる作例である。ミストラ、テサロニキにおける調査の成果は、さらに今後クレタ島やキプロスにのこる聖母の予型図像作例の考察にも繋がっていくことだろう。調査によって図像を詳細に実見した上で、周辺に組み合わされる別の図像や聖堂全体の装飾プログラムを把握し、配列や主題選択のあり方を考察することが、筆者の研究の中心部分となる。個々の主題についての神学解釈を照らし合わせ、また典礼上の組み合わせも考慮しながら周囲の図像との関係性を読み解くことによって、聖母の予型図像がその場に配置された効果、意味が浮かび上がる。各々の聖堂作例の分析を進めてプログラムを明らかにすることで、新たな視点からビザンティン後期の聖堂装飾を解釈することが可能となる。神をどのように表し、神学や典礼をどのように絵画化するのか、聖母を予型する旧約聖書図像を軸として、ビザンティン後期の聖堂装飾プログラムを明らかにしていきたい。研 究 者:京都産業大学 非常勤講師  倉 持 充 希本研究は、プッサンが1629−30年にローマで制作した《聖母の出現》(パリ、ルーヴル美術館)について、作品の現地調査を含む基礎研究、同時代画家の作例との比較、画家を取り巻く当時の制作環境に関する調査を行い、その主題表現、様式的特徴、そして画家の戦略を明らかにすることを目的とする。その成果は、筆者が目下執筆中の、博士論文の一部となる予定である。そのため、まず研究動向と、準備中の博士論文の構想を記した上で、本研究の意義を述べる。【研究動向】古典主義絵画の祖として知られるプッサンの作品は、フランス美術史において、重要な位置を占めてきた。しかし実際、彼が拠点としたのは、ローマである。そこで近年では、プッサンの作品を、ローマで活躍した同時代のイタリア人画家や北方画家の作例と共に、包括的に考察する研究が行われている。例えば、『エルサレム解放』に取材した物語画に見られる感情表現を分析した研究や(G. Careri, Gestes d’amour et de guerre. La Jérusalem délivrée, images et affects (XVIe-XVIIIe siècle), Paris, 2005.)、17世紀前半のローマの風景画を取り上げた『自然と理想』展(Exh. Cat. ⑬ プッサン作《大ヤコブの前に姿を現す聖母》―ローマにおける大型祭壇画への取り組み―

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