鹿島美術研究 年報第32号
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研 究 者:国立西洋美術館 研究補佐員  矢 野 ゆかりラウル・デュフィによるリヨンのビアンキニ=フェリエ社のために制作されたテキスタイルとそのデザイン(下絵)には、染織の技法、デザインといった点において彼の絵画との造形的な特徴を多数指摘することができる。この問題について考察を行うことは、デュフィの創作姿勢と作家像を正確にとらえるためにも重要であろう。本年2014年には、東京・大阪・名古屋の三都市を巡回する「デュフィ」展が開催されている。この展覧会はデュフィの創作活動の全容を簡潔に紹介するもので、絵画を中心とした複数の芸術分野の作品を年代順に展示しそれらの連関についても指摘している。この展覧会にはフランスと日本国内の美術館、ギャラリーが所蔵する装飾芸術分野の作品が多数出品されている(そのうち、テキスタイル関連は、テキスタイル18点、テキスタイル・デザイン8点、ポショワール版画9点、デュフィのテキスタイルを用いたドレス4点)。特に島根県立石見美術館所蔵のテキスタイルとテキスタイル・デザインのコレクションが、それらと関連するドレス、絵画、版画作品(同美術館所蔵)と合わせて国内外のデュフィ関連の展覧会にまとめて出品されたのは、今回が初めてであろう。そのコレクションの実態はこれまでに出版されたデュフィのテキスタイル研究関連の文献にも取り上げられていないため、詳細な調査に取り組みたい。上記の展覧会でも指摘のあった彼のテキスタイルと絵画作品における造形的な影響関係について、両分野の作品の図像比較による具体的な考察を行った研究は存在せず、デュフィの芸術を理解する上での大きな空白といえるだろう。また、デュフィのテキスタイルとその下絵の作品情報と画像データを一度の実地調査によりまとめて収集することは近年困難になりつつあり、研究助成を得てぜひとも複数の美術館への調査を行いたい。というのも、デュフィのテキスタイルとその下絵を所蔵していたリヨンのビアンキニ=フェリエ社が2002年に同業他社に買収されたため、デュフィ関連の資料を含むビアンキニ=フェリエ社のテキスタイル・アーカイブスの大部分は、ロンドンのクリスティーズによるオークション(2001、2003年)で売却されてしまったからである。その一部はフランス政府機関の購入により現在リヨンの織物装飾芸術博物館に所蔵されてはいるものの、デュフィのテキスタイルとその下絵は世界各地に散逸することになり、美術館の所蔵品以外の実地調査も容易ではな⑭ ラウル・デュフィのテキスタイル研究 ―絵画との関連について―

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