鹿島美術研究 年報第32号
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い。複数の美術館が所蔵するデュフィのテキスタイル・コレクションの実地調査を行い収集した作品情報をデータベース化することは、デュフィのテキスタイルとそのデザイン、絵画作品の比較を行い、両分野の作品の制作年代を再考するとともに造形的な影響関係を明らかにする上でも重要な資料となろう。また本研究は、20世紀前半の芸術における美術と装飾芸術の関係、芸術家の産業芸術への関与、美術とモードのつながりといったより大きな問題にも結びつき、今後発展する可能性を持ち得る。これまで美術史とテキスタイル研究の双方の側で詳細には論じられてこなかったデュフィのテキスタイルとそのデザイン、絵画との具体的な関連性について新たな視点を提供し、その調査研究で得た成果や情報を論文として発表することでさらなる学術的議論に寄与したいと考えている。研 究 者:熊本県立美術館 学芸員  才 藤 あずさ本研究は、旧熊本藩主細川家伝来の能面コレクションについて、作品及び関連の文書史料の調査・研究を通じてその特色を明らかにするとともに、近世諸大名によって収集された能面コレクション―いわゆる「大名面」―を研究する上での諸問題を提起し、近世能面史研究に資することを目的とする。武家と能楽の結びつきは足利将軍家による庇護にはじまり、豊臣秀吉による熱狂的な能楽愛好の時代を経て、江戸幕府の能楽保護政策によって武家の式楽として定着した。そのため、近世諸大名家では自藩の能楽を充実させるために能役者を召し抱え、江戸時代を通じて能面・能装束の収集に力を注いだ。こうして膨大な質と量を誇る能面コレクションが各大名家において形成されたが、そのほとんどは明治維新後に散逸し、現在までまとまった規模のコレクションを伝える家はごく限られている。細川家には公益財団法人永青文庫に所蔵される能面163面をはじめ、細川家の能面との関連が指摘される松井文庫所蔵の能面108面、松井家によって奉納された北岡神社の能面11面、細川忠興奉納の伝承を持つ宇佐神宮所蔵の能面といった膨大な能面群が確認されており、近世能楽史・能面史上における大名面の特色を考察する上で好個の資料といえる。一般に大名面のコレクションは江戸時代を通じて収集され伝えられてきたもので、⑮ 細川家伝来の能面コレクションに関する考察

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