長大な期間に及ぶ取捨選択の機会を経て形成されたコレクションという特徴を持つ。時には火災や戦災、売立てなどの要因によって作品が失われることも多く、現存する作品だけでなく、道具帳や文書史料などの精査を通して、遺されたものと失われたものの双方からコレクションの特色をとらえていく必要がある。また、大名面の大半は近世の職業的面打である世襲面打諸家によって制作された能面で構成されるが、能面の制作時期とそれが収集された時期は必ずしも一致しない。そのため、大名面の特色をとらえるためには近世能楽史や能面史、コレクション形成史など広範な視点からの研究が必要となる。細川家伝来の能面は、質・量ともに優れたコレクションであるのは勿論のこと、江戸時代初期の能楽隆盛期に活躍した能面作家の焼印を有する能面が数多く伝わることもあり、江戸時代の面打諸家による能面制作の実態と大名家における能面需要の関係を考察する上でも貴重な資料といえる。しかし、各作品の収集時期やコレクションの形成過程の問題に関しては道具帳資料が乏しいこともあり、未だ十分な考察がなされていない。そこで、本研究では、まず残された能面群の情報を整理し、道具帳や付属の資料などにみられる作品管理の記録と照合することにより、細川家の能面コレクション形成史における現存作品の位置づけを試みたい。その上で、細川家の文書史料を継続的に調査することにより、能面収集の経緯やコレクション管理の実態を明らかにしていきたいと考える。さらに、今後、他の大名面コレクションと比較・検討することにより、近世能面史上における大名面の特色を明らかにしていくことができるのではないかと考える。なお、細川忠興奉納の伝承を有する宇佐神宮所蔵の能面は、伝承を信じれば遅くとも細川家が豊前・豊後から肥後熊本へ国替えとなった寛永9年(1632)までの奉納と考えられる。すなわち、江戸時代初期の細川家と能楽の関わりや、領国内の神社の神事能における関わりを考える上での貴重な資料といえるが、宇佐神宮の能楽関連史料の精査はほとんど行われておらず、伝承の資料的裏付けはなされていない。まずは資料の所在調査を行うことにより今後の研究につなげていきたい。
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