鹿島美術研究 年報第32号
73/132

ば新知見を得られる可能性が高い。また、同館学芸員の協力をあおぎ、ベルリン国立アジア美術館の所蔵する模造・模本についても調査依頼を計画中である。このように国内外の各施設の担当者と密に連絡を取りながら可能な限りの調査を行い、その成果を公表することで、今後の調査を継続できる環境を整え、網羅的に情報を収集し、模造・模本製作の意義を随時、見直しつつ検証することを大枠の目的とする。研 究 者:黒川古文化研究所 研究員  川 見 典 久金属製の鏡は紙や絹、木製品に比べて土中しても残りやすく、二千年以上にわたって作品を通覧できるため、東洋の美術を考える上で重要な資料と言える。製作が盛んになった戦国から漢時代には、背面に天地や神仙世界の構造をあらわしたが、国際化の進んだ唐時代になると西方に由来する華やかな文様が採用されるようになった。7世紀から9世紀にかけて、唐文化は周辺地域に大きな影響を与え、日本においても正倉院宝物として遺された美術工芸品にその華やかさを窺うことができる。このような優れた美術工芸品を遺した唐人の精神を知るためには、鏡背文様の図像的な解釈や図柄の変遷を明らかにするだけではなく、各モチーフの具体的な形態表現や配置の感覚を追求する必要がある。従来、唐鏡とそれを真似た国産鏡の違いは、鋳上がりの良さなどの完成度や、素材となる金属組成によって論じられてきたが、真にその相違を理解しようと思えば、さらに踏み込んで文様表現の面から捉える必要がある。また、唐時代の美的精神に理解が及べば、鏡に限らない他の工芸品や、ほとんど現存していない絵画も含めた広い範囲における製作意識に応用が可能である。これにより図柄だけでは表面的な理解に止まる可能性のある当時の思想や信仰について、実感を持って迫ることができると考える。考察にあたっては日本のコレクションに含まれる唐鏡を中心に調査を行う。肉眼による観察により、文様の配置や形態表現、さらにはその製作技法をさまざまな角度から分析する。その際、高精細デジタル撮影による画像を用いた観察や、蛍光X線分析装置を用いた金属組成の調査をあわせて行う。どちらの機材も筆者の所属する黒川古㉒ 唐鏡の製作技法と文様表現

元のページ  ../index.html#73

このブックを見る