文化研究所で導入しており、筆者が日頃扱っているものである。このようないくつもの視点からひとつの作品を検証し、その製作年代はもちろんのこと、文様表現や製作技法の特徴について詳細に分析を行う。ただし、国内のコレクションは遊離資料であり、調査の内容をより確度の高いものにするためには、中国の考古学調査において出土した資料の観察も不可欠である。そこで当時都のあった長安(陝西省西安市)や洛陽(河南省洛陽市)を中心に、現在まで唐墓などから出土している資料を整理し、できる限り実見してその文様表現と製作技法を分析する。以上の考察により、鏡を通じて唐時代のものづくりの精神や美意識について明らかにし、そのような特徴が生じた社会的な背景について文献史料からも追求する。日本は同時代的に唐文化の強い影響を受けただけではなく、いわゆる「やまと絵」をはじめ、中国では失われてしまった唐の形式を後世まで長く守り続けている。日本の美術史や美意識を探る上でも、唐文化への理解は必要不可欠であると考える。研 究 者:神戸大学大学院 人文学研究科 博士課程後期課程 薮 田 淳 子アルブレヒト・アルトドルファーの初期の作品《エジプト逃避途上の休息》(1510年、ベルリン、絵画館)については、注文の記録や来歴などは基本的に明らかになっていないが、特異な形状の巨大な噴水が描かれているなど、従来の図像伝統に基づかない点が多く見られる。そのため、近年多くの研究者が多層的に論じてきたが、視点が若干散漫になってきたきらいがある。筆者は、画面に描かれた聖母と噴水の持つ意味に着目し、描かれるにあたって採用された神学的意味の再検討を行い、バルダス、ノル、ワグナーらによる先行研究で提起されてきた問題を再検討し、新たな解釈を試みる。管見のかぎり、「エジプト逃避途上の休息」という主題中に、本作品のような噴水型の泉が描かれた作例はない。筆者は、アルトドルファーのこの聖家族図は、エジプト逃避という物語性よりも祈祷図としての意味が強いと考える。従来の研究では、祈祷図としての聖家族図というものは、イタリアからドイツへの影響関係という点にのみ限定して論じられていた。しかし筆者は、ネーデルランドの写本文化が神聖ローマ㉓ アルブレヒト・アルトドルファー《エジプト逃避途上の休息》の図像解釈
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