鹿島美術研究 年報第32号
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あった、宗教改革直前期のドイツにおけるマリア図像の受容という問題にとっても意義深いと考えている。さらに、アルトドルファーの特異な風景表現は、画家の奇想によるものと考えられてきたが、本作品に描かれた風景やモチーフの意味を解釈することで、彼の風景表現は当時の神学思想に深く根ざしていたのではないかという仮説を提起し、アルトドルファー芸術を新たな視点で捉え直すことになるだろう。研 究 者:日本学術振興会 特別研究員(PD)  宮 崎   匠目的:本研究の目的は18世紀のフランスで制作されたミニアチュールに対する評価を総合的に明らかにすることである。具体的には各種評価者の意見の内容を明確にし、さらにそれらを相互に比較することで相対的に理解することを目指す。これにより、18世紀フランス絵画史・絵画批評史のより包括的な把握に貢献することが本研究の大局的な目標である。ミニアチュール作品研究の意義:本研究の意義は、ミニアチュール作品の評価を研究対象とすることで、油彩・フレスコ画作品とその作者を主要な考察対象とする近世ヨーロッパ絵画史研究において従来注目されなかった部分に光を当てることにあるといえる。また本研究がもたらすであろう成果は、油彩・フレスコ画に対する評価の研究に比較対象となる材料を与え、その相対化を可能にする点でも有意義であるといえる。ミニアチュール制作者研究の意義:本研究ではミニアチュールの制作者に焦点を当てる。従来は公的注文による作品を手がけ、美術行政の要職を占めた、大型作品の制作者が主に研究された。これに対し本研究では私的注文受注の割合が大きく、同業者組織内でも重職に就くケースが比較的珍しかったミニアチュール画家を対象とし、18世紀フランスの芸術家たちに対する評価の総体的把握を可能にする。この点にも本研究の意義を見出すことができる。多種多様な史料分析による評価研究:美術作品とその制作者は、作品の享受者、制作者自身、制作者以外の芸術家、専門的批評家といった様々な人物による評価の対象となりえる。本研究はこの状況に着目し、その実証的な理解のために、文書から絵画作㉔ 18世紀フランスで制作されたミニアチュール作品とその制作者に対する評価の研究

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