鹿島美術研究 年報第32号
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め、18世紀にフランスで出版された画家列伝を参照し、取り上げられているミニアチュール画家の数・それらの画家の伝記に割かれるページ数とそれらが全体に占める割合を算出する。③ 現存作品に基づく分析:制作者自身による評価を明らかにするために、ミニアチュール画家の自画像に描かれたモチーフ(人物像・仕事道具・芸術家の衣装など)を調査し、芸術家のミニアチュール制作者としての自意識の表出の傾向を分析する。研 究 者:京都大学大学院 文学研究科 博士後期課程  林   慧 怡北宋の絵画史というと、大様式山水画のイメージが強い。小景画は主流ではないが、宋代の画家が新様式を創造する上で、重要な役割を果たした。更に、何といっても文人に注目され、愛好され、彼らの創作意欲を喚起した。その溢れる詩情は徽宗を魅了し、画院の改革に際しては、南宋時代特有の対角線構造を促したと考えられる。その他、『宣和画譜』には日本の風景画を小景画とする記事が見出される。現存する絵巻物と扇面画を見れば、確かに小景画の特徴である対角線構造と平遠表現が見られ、「汀渚水鳥」の画面も多く描かれる。しかし、こうした興味深い小景画について、研究はまだ不十分の状態である。本研究は先行研究に残る問題を解明するとともに、不足の部分を補い、全面的な考察を加える。それによって小景画の重要性を示し、史的位置を積極的に見直すことを通じて、中国絵画史研究は一層の正確さと重厚さを獲得する。また、これは日本絵画史研究においても斬新な視野である。本研究の構想は、第一に、小景画に関する文献と遺品を広く蒐集して分析・比較し、小景画の様式、種類を明らかにする。そして、小景画の淵源を探す。唐・五代の詩には小景画のような風景、あるいは小景画のような屏風画を詠う例が少なくない。それらと唐代の壁画や遺品を併せて考察する。また、12、13世紀の大和絵は自国の景物を描いてはいるものの、唐代絵画の構図形式を継承していると考えられる。そこでこのことについて分析し、本研究の一つの論拠としたい。第二に、恵崇と趙令穰の画風を明確に判別する。恵崇の伝称作《沙汀煙樹図》(遼寧省博物館蔵)は明らかに山水画であるが、北宋初期の画風とは考えにくく、むしろ㉕ 小景画研究 ―唐から宋への展開―

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