(1)目的と構想―近現代における雪舟評価の形成過程とその背景―ドの著作をそのままタイトルに冠したポンピドゥー・センター・メスの「線の短い歴史(Une brève histoire des lignes)」展(2013年)においては、版画や油彩絵画、ヴィデオ作品、インスタレーションなども展示に含まれ、デッサンを「線が引かれた紙」という従来のメディウムから解き放ち、その定義を拡張する試みが展開されていた。また一方で、「デッサン」という言葉と概念が輸入され根付く以前の、日本も含めた非西洋文明における線のあり方にも関心を注ぐことになるだろう。本研究の延長線上に、西洋の伝統的な枠組みを越えたデッサン(線)の可能性を見据え、調査研究を継続していきたい。学芸員を目指す身として、いつか展覧会というかたちでこの研究が実を結べば幸いである。研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士課程 和 田 千 春本研究の目的は、近現代における雪舟評価の形成過程とその背景を、主に文献資料の収集・分析と、現地調査を行うことを通して明らかにすることにある。本研究の全体の構想としては、画家の美術史的・社会的評価形成に重要な役割を果たしていると考えられるいくつかの要素のうち、主に3つの側面、すなわち美術史研究、メディア、美術行政について、美術史的のみならず社会的要因にも注目しながら分析・考察することを通して、大まかに次のような構図を描き出すことができるのではないかと考えている。すなわち、19世紀末に始まる、アカデミズムや一部の特権階級による雪舟の再評価から、1930年代のメディア主催の展覧会による評価の大衆化へという、近現代における雪舟評価の形成過程の流れとそれを支える評価システムの実態である。なお本研究は、筆者が現在執筆中の博士論文「雪舟評価の形成過程とその背景」の根幹をなすものとなる予定である。というのも博士論文は全体として、生存中からすでに神格化されていた雪舟が、近世・近現代という政治体制の変動と価値観の転換の中で、なぜ、どのように評価され続けてきたのか、その評価システムと背景を、室町時代から現代に至るまで辿るという構想の下に執筆を進めているからである。(2)意義―美術史研究のあり方を問い直すきっかけに―㉛ 近現代における雪舟評価の形成過程とその背景
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