鹿島美術研究 年報第32号
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研 究 者:国際日本文化研究センター プロジェクト研究員、非常勤講師本研究は、日本による朝鮮の植民地統治期における朝鮮近代工芸の歩みを生産・流通・消費の次元で分析・検証し、朝鮮近代工芸に与えた日本の影響が何であるのかを明らかにすることを目的とする。さらには、現在の韓国で使われている「工芸」をめぐる概念や現在の日常で存続(活用)し続けている工芸品のあり方とその未来を再検討することをも視野にいれている。朝鮮近代工芸の歩み(人的・物的流動を含む)は、多くの日本人(官僚や企業家、技術者)によって推進された。朝鮮伝統工芸は、日本人企業家や技術者によって再生産され、その流通における近代的消費のシステムが構築された。このような流れの中で、今日の韓国における工芸品のあり方を生み出したといっても過言ではない。朝鮮近代工芸における総督府の施政は、主に「殖産復興」と「文化財保護」という政策が施された。一方の殖産復興に関しては、朝鮮在来工芸産業の奨励補助、工芸技術教育機関の設立、博覧会開催、朝鮮美術展覧会における工芸部の新設などがあげられる。他方の文化財保護においては、朝鮮の古社寺・其の什宝物・遺跡などの保護とそれらの研究調査、博物館と美術館の設立、古美術マーケットの形成等々があげられる。なかでも朝鮮人工芸家による日本留学と工芸学習をめぐる経緯と制作の詳細、彼らの日本国内の「官展」や「朝鮮美術展覧会」の工芸入選作におけるハイブリッド(hybrid)性などは注目に値する。ところで、朝鮮の近代工芸に関する従来の研究においては、柳宗悦や浅川巧などを中心とする「民芸」次元での研究が主流をなしてきたことは周知のとおりである。総督府の施政の中で多くの日本人が朝鮮近代工芸に深くかかわってきた。彼らの足跡や朝鮮近代工芸の産業化に携わってきた実態に関する研究調査に関しては十分とはいえない。このような現状は、朝鮮近代工芸の実態に関する研究の遅れだけではなく、植民地期(戦前)をめぐる日韓の間に横たわっている歴史的まなざしのズレを深めることにも尾を引いている。本研究は、朝鮮近代工芸の歩みにおける日本人介入の実態や、朝鮮工芸の近代化における日本の影響を浮き彫りにすることで、近代アジアにおける日本の植民地支配の朴   美 貞㉝ 日本帝国支配下の近代朝鮮工芸の歩み

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