であろう。従来の建築研究においては、20世紀モダニズム建築、とりわけ個人のための住宅建築の場合、それらは庭や植栽から明確に切り離され、建物のみが周囲から完全に孤立した造形物として解釈される傾向が優位にあった。その意味において、1990年代前半の建築研究領域で注目され始めるモダニズム建築家と「造園植栽家 Gärtner」の協働は、そもそもそうした従来の研究への反省の上に立ち、「堅牢さ」と「可変性」という元来相反する特性をもつ建築と植物をむしろ互いに不可分な存在として捉えなおす研究関心に基づいて明確化された視点にほかならない。しかしながら、そこでの研究が、基本的には建築様式論や運用論的アプローチに依拠するものであることもまた看過すべきではないだろう。すなわち、たとえばミース・ファン・デル・ローエをはじめ、ヴァルター・グロピウス(Walter Gropius 1883−1969)、ル・コルビュジエ(Le Corbusier 1887−1965)ら「植栽建築家 Gartenarchitekt」としての再評価が進む彼らが第一次世界大戦前後期から1920年代にかけて手がけたいわゆるモダニズム建築が、作庭や植栽という営みを介して世代的には彼らよりも一世代上の建築家、すなわちヘルマン・ムテジウス(Hermann Muthesius 1861−1927)やペーター・ベーレンス(Peter Behrens 1868−1940)、ハインリヒ・テッセノウ(Heinrich Tessenow 1876−1950)ら、ドイツにおいては歴史主義とそれに続く「古典的近代Klassische Moderne」の萌芽に重なり合うプロト・モデルネ世代の建築家が主たる担い手であった「改革庭園」や「改革建築」の思想に連なる点を重視し、それゆえに、主としてシンケル的な19世紀建築やイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の流れを汲む建築との様式的な親和性を求め、また、改革庭園や改革建築との運用論的な連続性をも重視するのである。本研究の意義ならびにその価値は、第一に、上述した従来の研究が看過してきた視点として、植物そのものを育成する近代園芸(学)の取り組み、とりわけ植物の樹葉の色彩学的分類や生長形態に対する生理学的研究が、モダニズム建築における色彩や形態的特性にいかに連動していたかを実証的に解明し、美術史学・建築史学の立場か―《景相生態地理学 Landscape ecogeography》的試論―研 究 者:慶應義塾大学 文学部 准教授 後 藤 文 子㉟ モダニズム建築と庭園
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