らあらためて建築と園芸の協働を再構築する点にある。この観点においても、造園植栽家カール・フェルスターの取り組みがきわめて重要な意義をもつことは、すでに本研究のための準備を通して確証を得ている。解明すべき具体的かつ重要な問題点の一つとして、近代園芸(学)の領域における近代色彩理論の重視が挙げられるが、こうした問題を美術史学の立場から検証する論考は、管見のかぎり日本においてもドイツにおいても未だ見当たらず、新たな試みと言えよう。第二に、研究の方法論に関する意義を指摘したい。本研究が主たる考察対象とする造園植栽家カール・フェルスターは、20世紀初頭よりプロイセン地方を拠点に植物の育成や品種改良を手がけ、ミース・ファン・デル・ローエほか近代建築家と協働して新しい庭園デザインを創出したことで知られる。その彼の取り組みの本質は、実は、19世紀ドイツを代表する天文学者ヴィルヘルム・フェルスター(Wilhelm Foerster 1832−1921)とカント研究で知られる倫理学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・フェルスター(Friedrich Wilhelm Foerster 1869−1966)をそれぞれ父と兄にもつ彼のきわめて特異な家庭環境を抜きにしては理解しがたい。したがって、造園植栽家・自然哲学者カール・フェルスターをはじめとする園芸的営みの検証を通して近代建築と園芸(学)の接続と統合を解明することを目的とする本研究にとって必然的な視野を、アレクサンダー・フォン・フンボルトの自然史学、とりわけ「人文地誌」や、エルンスト・ヘッケルの生物学における「オイコス」概念、さらにヴィルヘルム・オストヴァルトの色彩論ならびに一元論的文化運動など、そもそもフェルスター父子が直接的に深く連なる人文主義的・自然科学的系譜ならびに歴史的・文化史的素地に据えることを構想した。本研究の副題である「景相生態地理学 Landscape ecogeography」は、この点を踏まえたものにほかならない。研 究 者:宇都宮美術館 学芸員 藤 原 啓本研究の目的は、19世紀フランスの画家ギュスターヴ・モローと彼の身近な人々によって形成された文化的なコミュニティの全容を明らかにし、彼らが画家の作品制作や評価確立の過程において果たした役割を明らかにすることにある。優れた色彩感覚と古典文学に関する豊富な知識を持つこの画家は、ギリシャ神話やキリスト教の世界を描いた数多くの作品を制作したことで知られる。一方で、想像力㊱ ギュスターヴ・モロー周辺に形成された文化的コミュニティに関する研究
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