(『仏教芸術』第134号、1981年)。 清原雪信とその画業に関する研究研究者:実践女子大学大学院文学研究科博士後期課程本研究は、清原雪信(1643-82)について、いまだその実態を把握しきれずにある雪信の具体像とその画業に焦点を当てて調査研究を行うものである。雪信は、当時の江戸絵画界において絶大な影響力を及ぼしていた狩野探幽の姪孫に当たる女性であり、さらに探幽の有力な弟子であった神足常庵を祖父に、久隅守景を父に持つことから、常にその特異な出自に注目が向けられ、彼らとの師弟関係や親子関係を中心に言及されてきた。また、雪信の伝記を語るものとして井原西鶴『好色一代男』や伊藤梅宇『見聞談叢』の逸話はつとに有名である。ただし、これまでのように、狩野派の枠組みや師弟・父子との関係を前提とした考察、伝承や伝聞による情報をたよりとした伝記解釈は、充分には雪信自身を把握しきれているとは言い難い。そのため、既存資料に加え、雪信に関するさらなる資料収集とその調査・分析を行い、伝記の詳細、作品の傾向と特徴、雪信画の受容状況などについて考察を進めることにより、江戸前期に狩野派の女絵師として活躍した雪信という一絵師に対する理解を深め、彼女を江戸絵画史上に位置づけてく基盤を築けるよう、研究を進展させることが主たる目的となる。雪信の伝記に関しては、基礎資料である朝岡興禎『古画備考』の記録をもとに伝記に関する基本情報を確認し、それを踏まえた上で改めて師や家族との関係、絵画学習や制作の環境、狩野派内での立場などについて考察する。雪信を取り巻く環境は、探幽に近しい有力な絵師の一家の事例として注目されるとともに、雪信やその娘の春信のように女絵師を輩出している点でも他に例がなく興味深い。雪信を中心とした観点から、狩野家とその弟子筋の家族を捉え直す意義は、狩野派や女性画家関係、探幽や守景研究にも関わる考察として価値があるものと考えられる。さらに、雪信の作品論に関しては、国内外の作品調査に基づき、画題選択や作画の成熟度の観点から注目すべき作品を提示し、雪信の絵画制作の実態を想定しつつ、雪信画の特質やその独自性②阿部美香「醍醐寺焔魔堂史料三題」(『国立歴史民俗博物館研究報告』第109集、2004年)。③阿部美香「堕地獄と蘇生譚―醍醐寺焔魔王堂絵銘を読む―」 (『説話文学研究』第40号、2005年)。―90―大平有希野
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