美術館教育活動の記録化とその歴史的変遷に関する研究についても考察する。また、雪信画に関わる資料や売立目録の記録等に着目し、雪信画への評価と受容状況から、その画業の成果の一端が見出せるものと考えている。そして、本研究における作品・資料集成は、今後の雪信研究の基礎資料として有意義なものになると期待される。研究者:福岡市美術館主任学芸主事美術館における教育活動は定着し、認知されたかに見える。しかし、現在のように一般化するまでにはさまざまな試みがあった。それら試みのうち、ワークショップについての実践事例の紹介、ギャラリートークの手法紹介、あるいは社会教育の視点から美術館を含む文化ボランティアについての研究などは、既にかなりの数が存在する。だが、美術館教育そのものを分析・考察し、歴史的に俯瞰する研究はほとんどないと言って良いだろう。数少ない先行事例としては、降旗千賀子著『ワークショップ─日本の美術館における教育普及活動』(富士ゼロックス、2008年)、先駆的な教育活動を行ってきた担当者へのインタビューとして、降旗千賀子編『フォーラム・連続公開インタビュー美術館ワークショップの再確認と再考察─草創期を振り返る』(目黒区美術館、2009年)、岡本康明、鬼本佳代子、前田淳子、降旗千賀子編『第2回フォーラム・連続公開インタビュー教育的視点から見た関西の美術館・博物館の普及事業─草創期を探る』(京都造形芸術大学、2010年)があげられる。しかし、これらの研究および実践は、未だ美術館界全体に影響を与えるほどには成長しておらず、また、学問領域として確立するまでには至ってはいない。現在、先駆的な美術館教育を実施してきた担当者が定年を迎え始めており、その記録は急速に失われつつある。多くの教育活動は、展覧会図録のようにテキスト化されることが少なく、かつ、教育専門員は一人以下という美術館も多いため、活動やそれまでの記録の引き継ぎが難しい現状がそれに拍車をかけている。また、学問領域として確立していないために、大学・大学院等にて美術館教育を学ぶ機会のなかった若手教育専門員は、一から美術館教育について学び、かつ理念や活動の構築をせねばならず、教育活動が一般化したにも拘らず、発展的な活動を生み出すにまで至っていない。本研究は、美術館教育の歴史を外観することにより、「美術館教育」を単なる手法―91―鬼本佳代子(代表者)
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