鹿島美術研究 年報第33号
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京国立博物館アソシエイト・フェロー(選考時・慶応義塾大学大学院文学研究科博士課程)のミウォシュ・リチャード・ヴォズニ氏が、また西洋美術部門からは三菱一号館美術館学芸員の杉山菜穂子氏が財団賞の授賞者にそれぞれ選ばれました。また、優秀者には、それぞれの部門からの東京大学大学院総合文化研究科特任研究員の奈良澤由美氏及び京都府教育庁指導部文化財保護課技師の中野慎之氏がそれぞれ選ばれました。財団賞の選考理由については、小佐野委員と私がそれぞれの部門の選考理由を執筆しましたので、ここで読み上げさせていただきます。《日本・東洋美術部門》財団賞ミウォシュ・リチャード・ヴォズニ氏(東京国立博物館アソシエイト・フェロー)「曾我蕭白筆『雪山童子図』について―『釈迦の本地』、捨身飼虎、庚申信仰との関係性を中心に―」優秀者中野慎之氏(京都府教育庁指導部文化財保護課技師)「新南画の成立と展開」《選考理由》江戸時代中期、京都を中心に活躍した曾我蕭白は、今や京都奇想派を代表する画家として、伊藤若冲とともにきわめて高い評価を集めるに至っている。その特別展も開かれ、基準的な作品リストも制作されるようになっている。しかし、一つ一つの作品に関する個別的研究、図像解釈学的研究はほとんど行なわれていない。これなくして蕭白研究がさらに進展することは、決してないであろう。これによって、江戸絵画史上における蕭白の位置はさらに高まり、揺るぎないものになるはずである。しかし、あまりに強い個性の発揮に特色を有する蕭白の場合、図像解釈学的研究には多くの困難が待ち構えている。ヴォズニ氏はそれにひるむことなく、果敢なる挑戦を開始した若き蕭白研究者である。本論は蕭白の基準作であり、また傑作の誉れ高い松阪市・継松寺所蔵「雪山童子図」に焦点を合わせて、図像の観点から、重層的意味が含まれていることを明らかにした画期的研究である。本図は釈迦前世の物語である本生譚に取材し、雪山で修行していた童子、つまり前世の釈迦が羅刹に姿を変えた帝釈天に試問される場面を―15―

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