④ピカソとメランコリー―クラシック期の裸婦像に見る情感、様式、図像の諸問題―多くの公衆の関心を集めるイベントとなっている中で、画家たちはアカデミーの規範にある程度は従いながらも、公衆に興味を抱かせる作品を描くよう模索しなければならなかった。18世紀後半から一般の風景趣味が高まる中で、風景画においては特にそれが顕著であったと予想される。ミシャロン《ロランの死》は、中世の武勲詩である『ロランの歌』を主題とし、サルヴァトール・ローザを思わせるダイナミックな構図で描かれたものである。中世の物語とローザの風景画は、いずれも1810年代後半から1820年代にかけてのロマン主義の時代に流行したものであった。また古いフランスの遺産とフランス風景を賛美する態度は、テロール男爵とシャルル・ノディエが中心となり、1820年から発行し、人気を博した版画本シリーズ『古きフランスのピトレスクでロマンティックな旅』と軌を一にするものであった。実際、ミシャロンは本作を出品した1819年のサロンにて、大きな成功を収めている。筆者は、本作の主題選択経緯と受容を具体的に調査することにより、本作に見られる歴史風景画の変化を明らかにする。そのことにより、コローといった同世代と次世代の風景画家たちの置かれた状況が明らかになることが期待される。研究者:成城大学大学院文学研究科博士課程後期ピカソが20世紀モダン・アートの巨匠の一人であることは言うまでもないが、彼の画風が目まぐるしく変遷したことはよく知られているところである。中でも1910年代後半から1920年代前半にかけての通称「クラシック時代」は、彼がブラックと共に創始したキュビスムとは相反するもので、ピカソの全画業の中でどう位置づけるべきか、またその評価についての研究も、近年に始まったばかりだ。古典主義の問題は、ピカソの問題に限らず、いわば西洋美術の常数的美学としての性格を持っている。この問題と20世紀モダニズム絵画の関係は大きなテーマを形成するものとして非常に重要な様相を呈している。本研究で、ピカソの古典的手法における未解決事項になっているものを解明し、彼のこの手法を実証することは、近年、関心の高まりを示す前衛と古典主義の問題に直接的に寄与することになるため、20世紀―30―塚田美香子
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