鹿島美術研究 年報第33号
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⑧受胎告知図に描かれた幼子イエス― 一角獣狩りとの関わり―き込まれて、「秋田の全貌」という主題のもと、一地方の全体像が表象されている。対比的に描かれた祝祭と日常は、日本人の普遍的な営みと捉えることができ、「日本の固有の姿」を秋田に見出した藤田の日本表象といえる大作である。日本滞在期の藤田は、映画でも日本表象を目指した。国際観光映画「現代日本」の監督を務め、1935年10月から日本各地を巡り撮影を開始する。この映画は、『躍進日本』(5巻)と『風俗日本』(5巻)の2編で構成されていたが、藤田が監督したのは『風俗日本』編であった。当時の映画雑誌等によると、地方の伝統的な祝祭や日常生活が展開していることが窺える。この映画制作は、壁画《秋田の行事》の主題にも影響を与えた。海外に日本文化を紹介する目的で制作された映画「現代日本」は、完成後、その内容が批判を浴び、1937年に輸出中止となる。藤田監督の5巻のうち、現在視聴できるのは「子供日本」の巻のみであり、その他の4巻は所在不明となっている。このことから、映画「現代日本」の本格的な調査研究は難しいとされてきた。本研究では、壁画《秋田の行事》と1930年代の藤田作品、および映画「現代日本」と関連資料、地方紙の詳細な調査研究を行う。映画の資料は極めて少ないことから、映画撮影地で藤田が写した写真群の調査が、研究に大きく資すると思われる。現在フランスエソンヌ県のラ・メゾン=アトリエ・フジタに保管されている藤田撮影写真をはじめて分析し、映画との関連について詳細な調査を試みる。あわせて国際映画協会や国際文化振興会の記録、藤田の論文・寄稿、および未発表書簡等多角的な調査を行い、藤田の日本表象を考察する。藤田の日本表象の意義を検証する本研究により、藤田の1930年代の画業の方向性が明確になり、ナショナリズムが台頭する中、日本への帰国を意図した背景を解明できるものと考えている。研究者:清泉女子大学文学部准教授聖母マリアが神の子を宿す―キリスト伝の中でも非常に重要な場面として、古くから「受胎告知」は描かれてきた。聖母マリアとお告げをするガブリエル、という主たる構図の他に、様々な主題にちなむモチーフが加えられることがあった。その中で注目したいのが「十字架を背負った幼子イエス」というモチーフである。―36―木川弘美

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