鹿島美術研究 年報第33号
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⑩南北文化の交差する場―ピエモンテ地方のゴシック建築ファサードに関する様式論的考察―広げられ、その再定義が試みられている。あるいは、美術研究においてもシュルレアリスム美術の研究は進められている。河本真理はマッソンの自動筆記による絵画からエルンストのコラージュへの移行を指摘し、形式、内容が多岐にわたっていることを理由に定義が難しいと考えられていたシュルレアリスム芸術の美術的価値変動を分析している。また石井祐子はイギリスや日本におけるシュルレアリスムの受容の観点からこの芸術運動がもたらしたものを捉えなおしている。本研究もまた美術史的観点からシュルレアリスム芸術を考察する。とりわけ、前衛的古典主義とシュルレアリスムの関係を探り、外在的視点からシュルレアリスム芸術を考察することが本研究の特色である。前衛的古典主義についての主な研究書として、Kenneth E. SilverによるEsprit De Corpsが挙げられる。近年では、関連する展覧会が多く開かれている。たとえば、2010年にグッゲンハイム美術館で「Chaos & Classicism: Art in France, Germany, and Italy 1918-1936」展が開催され、2011年には、ゲッティ美術館で「Modern Antiquity: Picasso, De Chirico, Leger, Picabia」展等の開催が確認できる。日本でも庭園美術館において「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展が2015年1月17日から4月7日まで開催された。これらの研究書や展覧会カタログは、この芸術運動がいかなるものか、それに属する芸術家や年代の特定、その意義等を豊富な資料により明らかにしてくれている。以上のように近年注目を集めている「前衛的古典主義」との関係を考察し、シュルレアリスムの誕生をダダとの関係だけにみるのではなく、「前衛的古典主義」の反動としても読み解き、20世紀美術史においてシュルレアリスムを新たに位置付けなおすことを目的とする。研究者:日本学術振興会特別研究員(PD)実践女子大学ゴシック建築研究が、ピエモンテゴシック建築に対して十分な注意を払ってきたとは言えない。ロンバルディア地方のゴシック建築について大著を著したRomanini(1964年)は、「ピエモンテ地方には多くのゴシック建築が残されているが、ほとんど知られていない」と述べている。これに対し、近年ピエモンテゴシック建築に関する論文集を編纂したTosco(2003年)は、「状況はあまり変わっていない」としている。―39―茅根紀子

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