鹿島美術研究 年報第33号
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⑫近代日本彫刻史におけるロダニズム再考て、初期カロリング写本とロマネスク写本のイニシアルの間に見られる類似性を、地域を限定してその影響関係から論じることは、上記二地域の写本画の個別的研究としてだけではなく、美術史学の碩学らが再三言及してきた、ロマネスク芸術一般の生成過程を考える具体的な一例となるだろう。Ⅱ.構想以上の課題に取り組む為、下記の手順で調査研究を行う。1)該当地域の物語イニシアルを持つ写本の一覧化:文献学・古書体学の文献、デジタル・アーカイヴ及び所蔵先機関の写本カタログをもとに、物語イニシアルを持つ当該地域のプレ・ロマネスク写本のみの目録を作成する。2)図版の収集:上記写本の物語イニシアルの全図版を収集し、従来の写本画研究で取り上げられていない作例を多く扱う。その際、写本学的見地からの観察が可能なよう、近年の研究動向に於いて重視される傾向にあるレイアウト等の情報が失われないように留意する。3)分析と考察:物語イニシアルの形体別の類型化を通して、コルビー修道院、及びコルヴァイ、ヴェルデン両修道院を中心としたヴェストファーレン地方の物語イニシアルの持つ地域的・時代的特徴を明らかにし、写本の授受や写本画家の移動に伴う地域間の伝播・影響関係を分析・考察する。8世紀から11世紀にかけての、コルビー(ピカルディー)とコルヴァイ、ヴェルデン(ヴェストファーレン)という二つの地域では、初期から盛期中世にかけて膨大な量の写本が制作された筈だが、物語イニシアルを持つ現存する写本はそれほど多くはない。現在まで伝わるプレ・ロマネスクの物語イニシアルを新たに一覧化し、造形分析を通してその影響関係を扱う本研究は、中世写本画研究に於いて大きな課題の一つであった、カロリング朝の復興運動前夜の芸術とロマネスク芸術との類似性を具体的に説明する、一つの有効な例を示すことが出来るだろう。研究者:小平市平櫛田中彫刻美術館学芸員本研究で目指すのは、ロダンが近代日本彫刻にいかなる影響を及ぼしたのか、その内実を再検証することにある。ロダンは従来の彫刻史研究の中で彼の生命主義的な側面ばかり強調されてきた反―42―藤井明

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