⑲松岡映丘門下における女流画家―長山はくを巡る諸問題―クトに組み込まれているものが多い。例えば、1997年の《アトムスーツプロジェクト:保育園》が2010年の《幻燈夜会》というプロジェクトに組み込まれたばかりではなく、2013年の《太陽の結婚式》に一要因として反映されている。このような特徴があるため、ヤノベの仕事の網羅的かつ総合的な研究が必要である。ヤノベがポピュラー・カルチャー及び大衆文化、とりわけ大衆的な視覚文化を美術の領域へ取り入れ、さらに国家規模演出としての大阪万博を一種の原風景として扱った。その結果、ヤノベが演出した経済成長期日本のポピュラー・カルチャーの要素が深刻な問いかけとして浮き彫りにされている。数多くのプロジェクトに通底しているテーマは原子力であると言っても過言ではない。このテーマ自体は他のアーティストによって扱われているものの、ヤノベほど着実に、かつ多様で複雑に提示されていないだろう。一方では、吉見俊哉(2014)の研究では、大阪万博と原子力に対する大衆的なイメージ戦略の関係が指摘されている。他方、万博の美術的な象徴だった岡本太郎の《太陽の塔》から窺えるように、原子力という現代科学の最先端に関わる成果が、より原始的なエネルギーのイメージである太陽と混合した両義的な形で提示されていた。現代技術と消費の環境に対する意識と共に、それを超えた眼差しで、自然の創造的であり破壊的であるエネルギーの問題が、ヤノベによる岡本の作品の想像的な解釈から提示されている。その点、ヤノベの仕事は、現代美術評論家の代表の一人である椹木野衣が指摘しているところの、自然が発揮する、コントロールできない力と現代美術の出会いを具現する、大変優れた例であろう。国際的に普及し始めている環境人文学という研究分野からみても、ヤノベの視覚表現は大きな意義を持つことになる。本研究の構想として、ヤノベの総合的評価を通して、彼のすべてのプロジェクトを進行中のものとして捉えなおし、そこに危機と希望の表現を確認することになる。そこで歴史的な記憶は祝祭と廃墟という要素を通していかに隠蔽されながらも再生しているかを分析する。研究者:足立区立郷土博物館学芸員(美術)小林近代日本美術史上における「女流画家」への評価・検討は、現画壇で既に確固たる地位を持っていた画家たちの評価を柱として今日まで進展してきた。その成果とし―52―優
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