国画創作協会と野長瀬晩花地問題等、国内外の政治問題に対する田部ならではの応答としての本作のありよう、コラージュ技法によって層をなす大衆文化のイメージの連なり、そして貼り込まれた言葉が喚起するもの、同時代の前衛美術家たちが取り組んだコラージュと比較しても独特な方法といえる本作の技法的側面等、様々な切り口から詳細な分析・考察を引き続き行う。さらに作家のアトリエ調査も並行して行うことで、いまだ謎の多い田部の50-70年代の活動を明らかにしたい。九州派は福岡の前衛美術集団であるが、中央=東京を常に意識し、地域を越えて前衛美術家や批評家との交流ももちろん持っていた。その中にいた一人である田部光子の活動を、作品を精査し、同時代の美術のなかに位置づけつつ考察すること。田部光子という一人の美術家を追うことによって、日本戦後美術史を逆照射したい。研究者:和歌山県立近代美術館学芸員意義・価値館蔵資料データの公開による研究の進展野長瀬晩花の館蔵資料データのリストや文字資料の翻刻を公開し、アクセスし易くすることで、晩花研究だけでなく京都画壇研究の飛躍が予測される。また、古画の模写が多数を占める晩花による初期の絵画資料は、当時現存していた古画に関する情報としても貴重なものであり、近世以前の絵画研究においても重要な手がかりとなりうる。展覧会開催による社会への啓蒙和歌山県立近代美術館では晩花の作品や資料の他にも国画創作協会の画家の作品を収蔵しており、いずれ研究成果を国画創作協会に関する展覧会の開催につなげていきたいと考えている。専門家はもちろんのこと、一般の人々に国画創作協会とその周辺の画家や作品の魅力や価値を広く伝えることが可能である。美学・文学などの隣接分野への影響京都画壇で展開された絵画理論とそのアジテーターとしての美学者や文学者等に注目し、画家と研究者との影響関係を示すことで、美術史だけでなく美学や文学など、隣接分野の研究に資するものとなる。―69―藤本真名美
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