鹿島美術研究 年報第33号
90/128

カーピシー派仏教彫刻の研究(左)図1:梵天勧請(右)図2:舎衛城の神変(ともにギメ美術館蔵)研究者:名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程目的(意義・価値)本研究の目的は、カーピシー派仏教美術を網羅的に検討し、編年を構築してカーピシー派が同じくクシャーン朝治世下にあったガンダーラ諸地域やインド中部マトゥラーの中でどのような位置づけにあるかを明らかにすることである。これにより、100年にも及んで研究が積み重ねられてきたにもかかわらず未だ解明されないガンダーラ美術の編年研究に寄与することができるため、美術史のみならず考古及び仏教史等を含むガンダーラ研究史全体においても価値のあることと言える。加えて、アフガニスタンでは現在、中国国営企業の鉱床採掘権買収によって首都カーブル南東約40kmの仏教遺跡群メセ・アイナクの破壊・消失が深刻な問題(National Museum of Afghanistan, Mes Aynak: New excavations in Afghanistan, 2011, Chicago. 岩井俊平・前田耕作「アフガニスタンの仏教遺跡群メセ・アイナク」『佛教藝術』325、2012、pp. 69-93.)となっており、同国の特にメセ・アイナクに隣接し様式も酷似するカーピシー派仏教美術の重要性を再認識し、世に示すことには一定の意義があるものと考える。構想本研究では、国内の博物館・個人蔵及び国外の博物館所蔵(特にギメ美術館)のカーピシー地方出土の作例を網羅的に調査して各作例の様式的特徴を明確にし、その上でカーピシー派仏教美術全体の様式的編年を行う。カーピシー地方は7世紀にも仏教が隆盛していたことが玄奘の記録から知られる(『大蔵経』51、p. 837c.、桑山正進『カーピシー=ガンダーラ史研究』京都大学人文科学研究所、1990、pp.231-274.)が、本研究は特にクシャーン朝時代を検討対象とする。その上でガン―75―上原永子

元のページ  ../index.html#90

このブックを見る