(左)図3:奉献塔基壇(部分、カーブル国立博物館蔵)(右)図4:弥勒菩薩坐像台座(部分、マトゥラー博物館蔵)ダーラの他の地域やマトゥラーの仏教美術及びクシャーン朝の王朝美術との比較検討によりこの編年を調整し、カーピシー派と他地域作例との相互の関連を明らかにする。他地域との比較においては同地方で好まれた弥勒菩薩信仰や「舎衛城の神変」「燃燈仏授記本生」といった特定の物語表現とその典拠となる仏典記述の検討が重要となるほか、供養者像などのモティーフごとの比較検討も必要となるため、個々の物語主題やモティーフを個別に検討した後、これらを総合的に考察する。具体的には、編年構築に関してはまず仏陀が坐す獅子座や「涅槃」の場面で釈迦が横たわる獅子牀の足に表現された獅子の脚部(または上半身)の形式分類と編年を行う。各作例にみられる個々のモティーフの形式分類をガンダーラ美術全般、特に2世紀の盛期ガンダーラ美術と比較することにより、より正確な編年を導くことが可能になると考えられるため、比較的写実的な表現から著しく形式化したものまで幅広く認められる獅子の脚部の分類は編年の基礎とすることができると考える。この形式分類には既に着手している。獅子脚部のみならず、カーピシー派はペシャーワル周辺域から影響を受けた比較的写実的な作例群(以下第一様式、図1)と強い正面性など同地方特有の様式を示す作例群(以下第二様式、図2)の二種に大別できることは既に指摘されている(田辺op.cit., pp. 98-108.)が、本研究においては第二様式をさらに詳細に検討し、この様式に分類される作例群の前後関係や出土遺跡の位置づけまで明らかにすることを目指す。また、長く絶対年代の不明瞭だったクシャーン朝最盛期の王カニシュカの即位年(カニシュカ紀元)が近年の研究(H. Falk, “The yuga of Sphujiddhvaja and era of Kus・ân・as”, Silk road art and archaeology, vol. 7, 2001, pp. 121-136.)により西暦127/8年と明確に示されたため、年記を持つ作例との比較検討を行うことでより具体的な年代―76―
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