鹿島美術研究 年報第34号
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 19世紀後半のフランス陶磁と産業/装飾芸術振興運動ったシリーズではやはり芳年作と比べて描かれる頻度が高い。ほかにも女性風俗画では、洋服を身につけた女性の傍らには必ずといってよいほど子どもが描かれており、また「教育幼稚園之図」や『幼稚苑』シリーズなど子ども絵も複数刊行されている。江戸時代に美人画の名手、喜多川歌麿が多くの子ども絵を残したのと同様に、周延は明治の子どもたちを沢山描き残している。大衆性の強い絵師であった周延が子どもを多く描いた背景には、明治期の教育への関心の高まりも関係している。周延作品には、遊び姿と並んで読み書きや勉学に励む少年少女の姿が描かれており、当時数多く刊行された実用的なおもちゃ絵や絵双六とは異なる視点から当時の子どもたちを映している。本研究では、周延が子どもを描くことに注力した背景を、時代や受容者との関係から探りたいと考えている。そしてまた、周延が画業後半に用いた淡く柔らかい色彩が、宮川春汀や山本昇雲ら次世代の絵師の子ども絵にも通じていき、江戸期から続く子ども絵の系譜を成しているという点にも注目する。以上三点により、周延の画業を整理し、明治浮世絵におけるその特色を考察する。研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程  志 水 圭 歩本研究の構想フランスでは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、国威発揚の気運の下、産業芸術や装飾芸術(以下、産業/装飾芸術)に光が当てられ、伝統的な「芸術」の概念が激しく揺さぶられることとなった。こうした旧来の芸術や産業/装飾芸術がせめぎ合う状況は、高階秀爾氏の『世紀末芸術』や天野知香氏の『装飾/芸術:19-20世紀フランスにおける「芸術」の位相』、デボラ・シルヴァーマン氏の『アール・ヌーヴォー:フランス世紀末と「装飾芸術」の思想』(訳:天野知香・松岡新一郎)等、数々の先行研究によって明らかにされてきた。翻って本研究では、「産業/装飾芸術」の一角を構成する「陶芸」に焦点を当てていく。この頃のフランス陶芸においては、産業/装飾芸術振興運動の盛り上がりの下、エミール・ガレ、エルネスト・シャプレ、ジャン・カリエス、テオドール・デックらの陶芸作家や、セーヴル製作所、地方の各工房等によって多様な作品が制作されてい― 82 ―

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