経済的・物質的に恵まれすぎる位豊かな現在の社会では、ややもすると精神的な面がなおざりにされ、人間としての尊厳が失なわれつつありますが、こうした時世にこそ私達は心の豊かさを培う必要があるのではないかと思います。私は美しいものにふれ、美しいものを追求することも、精神の糧をはぐくみ豊かな心をつくる一つの方法ではないかと思っています。美術を鑑賞し愛好し、さらに研究することは私達の生活に潤いを与え、文化を高める力ともなりましょう。私自身も若い頃、岡田三郎助先生に師事して絵の道に親しみ、後年とくにイタリア中世の美術に関心をもって、イタリア中世の画家たちの絵や画伝を紹介し、また幾多の美術に関する図書も監修、編集して出版してきました。そこでこのたび、多くの人達が美術を鑑賞し、研究することによって、この分野の水準を高めるため、絵画を中心とした美術の振興を目的とする財団の設立を計画いたしました。鹿島美術財団は、美術に関する調査研究、特殊な美術図書の刊行、特殊な製作品の作成並びに美術に関する国際的交流などに資金的な援助の事業を行って美術の振興をはかり、わが国の文化の向上と発展に寄与することを目的とするものであります。この財団の設立によりまして、わが国は勿論のこと、海外の美術家、美術評論家、美術研究家の研究にも何らかの貢献ができ、ひいては美術鑑賞に親しむ人達に便宜と機会を提供して、美術を愛する人が一人でも多くなることに多少なりとも役立つことが出来ればこの上ない幸いであります。 昭和57年3月4日鹿 島 卯 女公益財団法人 鹿 島 美 術 財 団設 立 趣 意 書
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