⑥ ビザンティン詩篇写本挿絵におけるダヴィデの表象ていない。それゆえ、本研究は、19世紀後半にミュンヘンで活躍したギリシア人画家の画業を明らかにし、正当に再評価することを目的とする。現在でも象徴主義の画家として名高いベックリンやドイツ写実主義の旗手として知られるライブルとともに没後すぐ遺作展が開かれたほどの実力者が、現在、ギリシア以外ではほとんど忘れられた存在となっている状況を変える必要があると筆者は考える。また、ギジスが原田直次郎のミュンヘン留学時代の美術活動に影響を与えた可能性を検討することも試みたい。ギジスは、留学時代の原田の師であるマックスと相弟子で、原田の親友ユリウス・エクステルや原田に恋した女流画家ツェツィーリエ・プファフの先生でもあり、原田と直接的な交流があった人物たちと近しい関係にあった。そのため、ギジス自身やその作品について調査することは、未だわからないことが多い原田直次郎の留学時代の美術活動を知る一助となると筆者は考える。本研究では、先行研究を踏まえつつ、現在テサロニキ市立美術館に所蔵されている旧ギジス家コレクションの作品群をはじめ、ギリシア及びミュンヘンにあるギジス作品を実地調査することによって、ギジスの作風の変化や様式的特徴について考察する。とりわけ、1884年4月から1886年11月までミュンヘンに留学していた原田直次郎に影響を与えた可能性を想定しつつ、1880年代のギジスの作品に注目する。また、文献調査では、未入手ではあるが、ギジスの手紙を編んだ書簡集(Επιστολαi του Νικολáου Γυζη, Αθηνα, Εκδοσειϛ Εκλογη, 1953)を調査することによって、ギジスの関係した人物や当時の考えなどについても考察したい。本研究は、現在ギリシア以外では忘れられた存在となっている19世紀のギリシア人画家ギジスを再評価するきっかけになると同時に、日本近代洋画史に燦然とその名を残す原田直次郎の留学時代の美術活動を明らかにする機会となることが期待される。研 究 者:早稲田大学 非常勤講師 辻 絵理子近年、各国図書館写本室の所蔵品のデジタル・アーカイヴ化が進んでおり、居ながらにしてオンラインでカラー図版を見ることが可能になりつつある。一方、作品保護の目的もあって、高画質のデータを提供する代わりにオリジナルの閲覧が断られる例― 41 ―́́́́
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