鹿島美術研究 年報第34号
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⑬ 刀装具における片切彫の研究まず被帽地蔵の発生した背景を解決するために、四川省に分布する地蔵菩薩像(唐~元代)を中心に調査し、その①尊像構成②頭巾の形態③持物に分類し、その時代的変化を追う。同時に、羅漢像・大師像・鬼子母神像など「頭巾」を被るその他の尊像についても目を向けながら、図版を網羅的に収集し、両者の図像形式や様式の相互影響について検討を行う。次に被帽地蔵の図像の意味について考える。なかでも①「十王」②「頭巾」③「錫杖」に注目し、経典・説話などの文献史料からそれぞれの意味・性格を検討する。①~③は、晩唐に地蔵菩薩の図像が円頂から被帽へと変化する過程で表現されるようになることから、それらに内在する思想を明らかにすることにより、その成立の背景も明確になると考えられる。最後に四川で隆盛した地獄思想が、被帽地蔵という図像を通じて東アジア諸地域に与えた影響について考える。被帽地蔵の現存作例は、西から高昌・敦煌・四川・雲南・山西・寧波・高麗・日本の地域に認められる。これらは中国では主として長江流域に集中しており、開封や遼寧にはその流行の形跡がみえない。そして東アジアの東端を占める朝鮮半島では高麗~朝鮮時代まで流行するのに対し、日本ではきわめて部分的な受容にとどまる。これら図像の伝播経路が示す信仰的背景についても考察を試みる。以上の構想から、被帽地蔵の図像成立の問題を明らかにし、朝鮮半島における受容の理由を明確にしたいと思う。研 究 者:大阪歴史博物館 主任学芸員  内 藤 直 子研究のねらい片切彫とは、彫り口の片側が深く、片側が浅くなることで彫刻の線描に抑揚をもたらす技法である。本研究ではこの技法の具体的な使用法を分析することによって、この技法が刀装具にもたらした影響を明らかにする。研究の構想片切彫の表現とその効果について、下記の見通しにもとづき分類整理する。①横谷宗珉の鏨表現と絵画表現との関連― 51 ―

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