鹿島美術研究 年報第34号
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・ 武用の具であった刀装具の鑑賞作品としての表現の豊かさを正当に評価することに・ 片切彫の表現と技法の展開を明らかにすることにより、江戸時代後期の金工作家の技術の革新が、近年「超絶技巧」として注目される近代の金工作品の技術を支えていることを明らかにしたい。横谷宗珉の作品は、片切彫をそれぞれのモチーフに応じた用法に使い分けて表現している。そのような宗珉の使い分けに、英一蝶や狩野探幽などの絵画表現からの影響がないか、用法の使い分けに着目して関連性を考察する。②一宮長常による輪郭線への応用横谷宗珉が片切彫に多様な表現を求めたのとは対照的に、一宮長常の作品では片切彫はほぼ輪郭線に限定して用いられている。また、長常は片切彫・平象嵌併用による絵画的表現を目指したと考えられることから、その表現意図を本人が描いた絵画作品の実見・比較などにより検討したい。③大月光興による線刻の面的利用大月光興の片切彫は、一部の線描の幅を極端に広く面的に彫る。地板を鋤き下げる点では肉合彫にも似るが、視覚効果としては対象を面で捉える没骨表現に近い。この魅力的な彫法が何に由来し生じたのか、またその狙いが何であるかを、作品の刻線を絵画作品における筆法と比較することで明らかにしたい。④加納夏雄の技術継承と改良加納夏雄は、外鏨で表現された片切彫作品を「図様扁平」と評し、内鏨表現を考案した。片切彫の面的使用という点では光興との共通性も認められる。そんな光興から夏雄への展開を軸に、片切彫の技術系譜についても考察を加える。①~④の人物の年齢はいずれも5~60年間隔である。この①~④に至る展開を時系列に捉え、片切彫の技術的な系譜として整理する。研究の展望・ 従来ひと括りであった「片切彫」を分類・整理することで、今後、美術工芸品としての刀装具の調査研究上の礎となることが期待される。よって、刀剣の付属品としての狭い刀装具観を脱却することができる。― 52 ―

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