鹿島美術研究 年報第34号
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⑱ エミール・ノルデの東アジア滞在について研 究 者:福岡県立美術館 学芸員  藤 本 真 帆本研究では、エミール・ノルデの日本および東アジア滞在について、彼が当該の地で目にした美術作品や文物、あるいは手にした画材等を検証し、ノルデ絵画への影響関係を検討することを中心に、ノルデの東アジア滞在とその影響と意義について考察することを目的とする。ノルデは1913年から1914年にかけて、ニューギニア学術調査団に同行し、その途上、1913年10月から11月に、日本に立ち寄っており、その前後には朝鮮半島や中国等を訪れている。ノルデのニューギニア滞在、および彼とプリミティヴィスムの関わりについては、先行研究においてすでに様々な角度から論じられてきたが、彼の東アジア滞在はノルデ研究においてはこれまでさほど重視されてこなかった。ノルデの画風に明白な影響が見出せるニューギニア滞在に比較して軽視されてきた状況、さらには、ノルデの自伝など日本に関して大きく目を引く発言を残していないことなどに起因しているだろう。しかし、ノルデの絵画に東アジア滞在の痕跡が全く見出せないわけではなく、例えば、日本の能面がノルデの油彩画に描かれていることはしばしば指摘されることである。また、ノルデがその水彩画の技法を深化させていく過程において、水墨の文化をもつ東アジアの滞在が影響を与えた可能性もあるのではないだろうか。ノルデが東アジアで水墨画を目にする機会はあったであろうし、吸水性に優れ色にじみの良い和紙などをこの旅で見つけていることなども興味深い。本研究では、ノルデの日本滞在・東アジア滞在を調査し、それらがノルデに与えた影響、特に水彩画における影響を中心に考察する。そのため、第一に、ノルデの東アジア滞在時の旅程を詳細に追い、当時の美術作品の売立や美術館の展示などを調査することで、彼が目にした可能性があったのはどのような作品であるかを検証する。また、ノルデ財団所蔵のノルデが収集した能面、陶器、浮世絵などにどのようなものがあるか、いつ頃入手したものであるかについても調査を行う。第二に、ノルデ財団所蔵のノルデが東アジア滞在時に描いたスケッチ等について、― 59 ―

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