鹿島美術研究 年報第34号
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 江戸時代中期の寒山拾得図 ―白隠・仙厓・大雅の作品を中心に―洋美術に対する関心についても比較検討を加えたい。加えて、1927年(昭和2)に出版した『聖子降誕』(日曜世界社)では、日曜学校での対話劇の台本から10話を選び掲載するとともに、題材に関連する挿絵を描いていることから、草牧のキリスト教への理解と信仰について考察するとともに、挿絵にみられるキリスト教美術からの影響について検討する。上述のような、吹田草牧におけるイタリア美術の受容に関する研究を基礎として、土田麦僊を中心とする、国画創作協会の第一世代の画家におけるイタリア美術の受容と、共通点や相違点の比較検討を行い、イタリア美術の受容とその変遷について明らかにするとともに、受容の背景となった大正期の日本画の特質についても考察したい。研 究 者:学習院大学 文学部 助教  江 崎 ゆかり本研究は、江戸時代中期に制作された寒山拾得図、特に禅林の知識を背景とした作品に焦点を当て、その分析を通して、江戸時代中期における禅林コンテクストの受容の様相を明らかにすることを目的とする。また、その前段階として、中国・日本における寒山拾得イメージの全体像を把握することで、本研究の中心テーマである江戸時代の寒山拾得図の特質を明らかにすることができると考えられる。寒山拾得図のイメージソースとしては、『寒山詩』をはじめ『景徳伝燈録』などの燈史類のほか、禅僧の語録や五山文学に現れる題賛などの史料がある。禅宗画題である寒山拾得図を考える上で、これら史料の読み込みは不可欠である。しかし、従来、絵画作品と寒山拾得関係史料を関連させた包括的な分析がなされているとは言い難い。そこで本研究では、寒山拾得という画題をヴィジュアルとテクストの両面から検討する。第一に、寒山拾得図のパターンを整理する。寒山拾得図の中には典型となっている経巻と箒以外のモチーフが画中に描かれる例を見出すことができる。また、図様に関しても、月を指すもの、真横を向いて手を合わせるものなど、いくつかの種類に分類できる。このようにモチーフと図様という観点から、寒山拾得図を構成する諸要素の概観、分析を行う。― 67 ―

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