部の様子から蝋原型時の雌型使用の有無が指摘されるが、雌型を利用したとする確実な根拠は示されず、その制作方法は定まっていない。この雌型を利用した原型制作は、従来説明される制作方法とは大きく異なる。こうした問題点を整理し、調書と先行研究の再考を加えた結果、同一工房の制作であるが、実制作者は異なることを指摘し、制作技法は雌型を利用した蝋原型の制作方法を含めて、4通りを考察している。また、二像にはそれぞれ差異が見られるが、中でもN163号の腹帯は国内では数例のみであり、N164号の裙の裾を摘む左手の表現は国内では他に例を見ない珍しい仕草の表現である。このように、二像は7世紀を代表的な様式のもつ作例の一つであるが、その制作技法、形式ともに特異な点がある。法隆寺献納宝物の金銅仏は再現実験を含めた特別調査が行なわれたものの、調査の最終的な報告書が公表されて以来、研究は十分に行なわれていない。これまで法隆寺献納宝物金銅仏の研究は編年、図像解釈、様式の受容についての研究が中心であるといえる。これらの金銅仏の制作方法には課題を残す作例もあり、技術の詳細に関しては個別に検討する余地がある。制作技法の研究の不足の原因として、文献のみでは技術が十分に理解しづらいことと、型を用いる鋳造が、木彫などに比べて間接的な造形であるため、通常の作例観察に比べて判断しづらいことがあげられるだろう。その点武蔵野美術大学、同大学院で彫刻の鋳造の経験を有する筆者は、この問題点を解消する方法として、再現実験を行なうことが可能である。観察と再現実験を行なうことで、従来の制作技術研究より踏み込んだ精緻な考察を目指す。また本研究では、国内外の作例を比較し、図像の受容に対しても研究を充実させる。現在、筆者が比較にあげる作例は法隆寺や、法隆寺献納宝物など国内の作例が中心であるが、実地調査を通じて比較例を広げたい。半跏思惟像の普遍的な図像と、二像固有の差異を確認し、制作技法の復元と合わせることで、二像の制作背景について精度を高める。作品の成立には制作技術が欠かせないが、金銅仏の技法研究は遅れている。仏像の様式、図像の伝搬と同様に技術の伝搬はある。作例がどのように作られたのか、技術の共通性から、同時代の交流状況を探ることも可能であろう。制作技法から研究を進めたい。― 70 ―
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