近衛信尹の書と料紙装飾―陽明文庫蔵「源氏物語和歌色紙貼交屏風」を中心に―研 究 者:大阪大学大学院 文学研究科 博士後期課程 浜 野 真由美本研究の大きな目的は、近衛信尹の書作と料紙に焦点を当て、日本の近世初期の書画の関係を探ることにある。当該期では光悦書・宗達画が注目を浴びる傾向にあるが、その陰で研究史に埋没しがちとなっている信尹の作にも、大字仮名と水墨山水画を融合させた「檜原図屏風」(京都・禅林寺蔵)や、色紙形を屏風素地に縦横に配した「源氏色紙貼交屏風」(京都・陽明文庫蔵)など、書画が興味深いコラボレーションを見せる作が存在する。しかしながら、こうした書画の関係性が日本の美術史上にどのような意味合いを持つのか、また、信尹の書作に如何なる絵師が関わったのか、その史的意義や制作事情について積極的に考究した先行研究は少ない。したがって、信尹の色紙貼交形式の書画屏風として著名な「源氏色紙貼交屏風」を研究対象とする本研究は、近世初期の書画制作の実相を明らかにする上で、新たなケーススタディとなり得るであろう。さて、本研究の対象に据える「源氏色紙貼交屏風」は、色紙貼交形式の書画屏風のうちでもとりわけ装飾性に富む屏風である。本屏風の書は、金銀泥絵で加飾された色紙に『源氏物語』所収の和歌がそれぞれ一首ずつ書かれており、その色紙61枚が屏風素地の色鮮やかな絵画と呼応するように、右隻に31枚、左隻に30枚と変則的に貼付されている。色紙の書式や屏風への貼付方法については、南北朝時代の書論書等が参考になるが、むしろ本屏風の色紙の貼付方法は同時代の琳派の作例を想起させるものである。例えば、右隻の左右から流れ込む土坡と雪崩打つような色紙の配置は、光広書・宗達画「蔦の細道図屏風」を彷彿とさせ、また、左隻の波濤上に浮かぶような色紙の配置も、光悦書・宗達画「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(京都国立博物館蔵)の群鶴の飛翔を連想させる。つまり、本屏風は当代の書画の関係性を如実に反映しており、上記に掲げた琳派の作例と同様、書画が互いに拮抗する作であるといえるのではなかろうか。さらに、色紙に施された精緻な金銀泥絵や、屏風素地の絵画の担い手についても検討を加える。先行研究では、絵所預の土佐派の絵師(光茂か?)が山科言継の依頼によって短冊の下絵を描いた記録(『言継卿記』大永7年23・24日条)や、狩野興以が― 71 ―
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