東アジアのアンフォルメル絵画 ―吉原治良を中心にして―如慶の画業を土佐派から住吉派へという流れの中で捉えなおし、住吉派源氏絵の特質を解明する研究を、光則の源氏絵に大きく影響を受け、それらを起点として派生していったその他の画派の源氏絵研究へと繋げ、17世紀の源氏絵制作とそれにまつわる『源氏物語』解釈について広い視点を以って論じたい。本研究は、近世源氏絵研究の上でも次なる展開が期待できる研究テーマである。以上のごとく、本研究の具体的な構想として、(一)光吉・光則各図様と物語の<読み>の対応関係、(二)如慶からはじまる住吉派源氏絵の解析を柱として進める。17世紀の光則を起点として展開する諸派の源氏絵制作を紐解いていく大きな一歩としたい。研 究 者:町立久万美術館 学芸員 中 島 小 巻その意義東アジア近現代美術史研究は、欧米からの影響の分析に特化しすぎており、その独自性を明らかにできていない。「具体」の場合、欧米の美術批評家たちによって、欧米美術至上主義的なイデオロギーから「抽象表現主義の亜流」と見なされ、世界美術史から退けられた。また、そのような評価を約半世紀もの間、日本の美術批評家や美術史家たちが半ば無批判に受け入れたことが主因としてあげられる。(中谷伸生『大坂画壇はなぜ忘れられたのか―岡倉天心から東アジアの美術史の構想へ』醍醐書房、2010年)東アジア美術研究は、「中心」(欧米)と「周縁」(東アジア)をめぐる関係性を見つめ直す必要がある。価値従来、日韓の現代美術研究は、「欧米の影響」という観点から論じられてきたことで、影響を与えた元の作品(原型)探しとなりがちであった。それらの研究報告は、「欧米の周辺に位置付けられる日韓美術」という図式を生み出している。この点を配慮した本研究の特色は、作品論を基本としたことで、日韓におけるアンフォルメル様式の独自性を明らかにし、両国の自立的な美術史の形成に一翼を担うことである。「具体」と「現代」は、各国の美術史に先鋭的な動向をもたらせた極めて重要な制作者集団である。両グループの作品は、概念や形式で明らかに先行する欧米の作品群― 75 ―
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