鹿島美術研究 年報第34号
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 琉球紅型踊衣裳の研究 ―近現代沖縄舞踊家を中心に―とは一線を画し、欧米美術至上主義的な見方が色濃い現代美術史の評価に一撃を与え、瞠目させるものがある。よって、筆者は、「具体」と「現代」の共時的展開の指摘が東アジア美術史を形成する上でも非常に重要であると考え、研究の核としている。構想日韓には、共通する思想や文化が基盤にあることで、共有する絵画表現、そしてそれを実現する技法は数多い。筆者は、この点を踏まえて、言語学やユング心理学などの「共時性」の概念を美術史の研究方法に適用する。詳細には、「同時発生」という現象のみを捉えることに留まっていた従来の「共時性」の概念を発展させ、あえて同様の美術様式が生成された背景を探求することで、共時に至る時代背景や地域性、作家の理念に着目し、実証的な作品論を展開することを目的としている。研 究 者:ドナルド・キーン・センター柏崎 学芸員、      沖縄国際大学 南島文化研究所 特別研究員  児 玉 絵里子本研究は、従来、染織史・美術史・芸能史の狭間で看過され続けてきた「紅型踊衣裳」について調査研究を行うものである。これまで、国内外研究者の中で筆者のみが断片的に行ってきた琉球紅型踊衣裳に関する調査研究を推し進め、沖縄県での実地調査により、染織史・芸能史・精神史の総体的関連の中で紅型踊衣裳の本質を捉え直し、最終的には沖縄民族藝術の本質を明らかにすることを目的とする。筆者は、2000年以降沖縄県に在住して聞き取り調査により多くの新知見と新資料を明らかにし、琉球紅型研究において初めて、琉球王国時代紅型との比較対照を視野に入れた体系的近現代紅型史を構築した [学位論文『琉球紅型の研究』(2009)、単著『琉球紅型』(2012)]。その後、沖縄(琉球)の芸能祭祀の場に用いられる「紅型」の問題に着目し、2012年度には貴助成により研究課題「琉球王国時代から現代に於ける沖縄(琉球)の芸能祭祀と紅型――紅型の衣裳と幕について――」に取り組んでいる。本研究は上記の成果を土台とし、沖縄染織と琉球芸能の両分野で研究を重ね、約16年間、国営沖縄記念公園(首里城公園・海洋博記念公園)の管理運営を預かる財団法人海洋博覧会記念公園管理財団学芸員等を務めた背景等により初めて取り組むことが可― 76 ―

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