能となった研究課題である。従来、沖縄独自の染色「紅型」は、伝世品における意匠の考察、模様の分類や意匠の比較対象研究、材料・材質や技法の解明を中心に分析と考察が進められてきた。これに対し本研究は、琉球紅型が、時代や社会の中で担った役割、思想的意義の考察に重点を置く。特に、「琉球芸能」という文脈のなかで、紅型踊衣裳の存在、そして、生成に於ける思想的・文化的背景の考察を試み、沖縄精神史をも視野に入れた紅型踊衣裳の重層的意義を明らかにしようと試みる。この取り組みにより、紅型・衣裳・芸能、そして、沖縄の舞踊家という相対的関連から、沖縄民族藝術の特質を浮かび上がらせたいと考えている。琉球芸能において、芸と装束の関係は不可分である。個々の芸能家がいかなる思想のもとに芸能衣裳を選び、自らの芸(舞台)を創り上げるか、という問題は、琉球芸能の本質を考察するうえで極めて重要な課題である。しかし、この問題は、最終的な課題となる「沖縄民族藝術」の解明にも繋がる根源的問題でありながら、他者が介入し難い伝統的分野、芸術分野であるという点、衣裳すなわち個人の所蔵物という点、また、研究において琉球芸能と染織との両分野に精通して丹念な聞き取り調査が求められるという理由から、これまで、筆者の取り組みの他は、まとまった調査研究が行われずにきた。琉球芸能における各舞踊家の芸に関する研究は、各流会派が多岐にわたる人間関係を構成すること等も要因となり、研究者の総合的観点から行われた聞き取り調査の実例に乏しい。また、個人蔵資料の公開も、筆者の研究成果が中心である。しかし、元来、消費される染織品という存在の琉球紅型において、近現代踊衣裳の特質の解明を試みることは、まとまった資料が存在するという意味においても極めて重要な課題である。そして同時に、この問題の考察は、琉球芸能踊衣裳の様相、ひいては、琉球芸能の様相をも明らかにするという点で極めて重要な課題と指摘できる。これまで十分な考察が行われてこなかった近現代踊衣裳の調査を重点的に行い、本調査により、近現代踊衣裳の実態解明、そして、舞踊家の思想、琉球芸能の本質に関する研究成果を明らかにし、ひいては、「沖縄民族藝術」を解明する糸口としたい。― 77 ―
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