「秋夜長物語絵巻」の成立と展開残りの12点を中心に扱う。これらは異なる様式の画家の下絵に基づいている為、一見したところ様式上の一貫性は認められないものの、それぞれのタピスリーは、土地に根付く伝統や風俗、地理的特徴、歴史的建造物、著名な人物など、各地方に由来する様々なモティーフを組み合わせ、その土地のアイデンティティを視覚化しているという表現形式の点で、連作としてのまとまりを有している。本研究では、それぞれのモティーフを読み解きながら各作品の解釈を提示し、さらに、同時代の政治的・社会的背景を踏まえながら、連作全体に対し美術史的位置付けを与えることを目標とする。本研究の意義・価値研究対象である本連作は、20世紀初頭のフランス美術史において看過されてきた作品群である為、まず、作品や制作経緯に関する一次資料および文献等の基本的情報を整理し、それらに基づき作品記述を行うこと自体に価値がある。また、本連作の考察を通じて、国家機関であるゴブランの大戦期の活動の一側面が明らかとなり、その研究成果が、第三共和政の美術行政のあり方を考える上で重要な貢献を果たすものと考える。加えて、美術批評から行政官へ転身するという稀有な経歴のジェフロワを扱うことは、時に、テキスト研究だけで完結したり、批評家の言葉と実作品との乖離が否定できない、といった課題を持つ美術批評家研究の領域においても、興味深い一例となると考えられる。研究者:名古屋市博物館学芸員本研究の目的は、「秋夜長物語絵巻」をその図像表現や制作背景の分析を通して美術史上に位置づけるとともに、MET本と永青文庫本の比較を行うことで、その図様の変容やあるいは継承を具体的に指摘し、さらに、絵巻物の模本・異本制作における再生産や新解釈が加えられる図像生成の過程の一端を明らかにすることにある。近年、絵巻物の研究分野では従来に比して新たな研究成果が続けて発表され、多くの研究者の関心を集めている。2015年11月には、東京国立博物館にてシンポジウム「一遍聖絵の全貌」が開催され、法眼円伊筆「一遍聖絵」(1299年成立)について、美術史学にとどまらず、歴史学、芸能史学、建築史学など様々な分野の研究者から新たな見解が提示された。2017年2月に大和文華館にて開催されたシンポジウム「白描画―87―藤田紗樹
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