鹿島美術研究 年報第35号
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宋代中国に見られる新たな図様の千手千眼観世音菩薩像について翠恂2014年、竹尾ペーパーショウの大阪会場において、「I’M NOT SURE:関西におけるグラフィックデザインを記述する試み」と題されたイベントが開催された。これは関西におけるグラフィックデザイン史の不在に対し、デザインの制作現場で活動する若手のグラフィックデザイナーたちが疑問の声を上げた行為であり、これまでのデザイン研究がこうした疑問に対応してこなかったことを如実に示すものであった。また企業においては、近年の事業再編等に伴い、これまで保管されてきた過去の制作物・製品、資料等が破棄されるケースが多々発生している。過去の資料等が文化的に価値あるものと企業内で認識されていないこと、研究者もその価値周知に積極的に関与してこなかったことがその原因の一端であろう。同時に、企業アーカイブの意識が向上の兆しを見せ、企業間で過去資料の保存に関する情報が共有される動きも生まれている。こうした傾向を好機とし、調査研究やその発表等を通して、研究者が制作物や製品、関連資料等を「文化財」として位置づけていくことが重要である。表現の時代性に光を当てる活動の特長を採用、参照しながら、デザインを検証する上で加えるべき視点は加え、人々の「生活」を探求の中心におくデザイン史を追究することにある。意義等〈資料等の発掘と整理、研究のプラットフォーム〉本研究は、実際の制作物や製品とそれに関連する一次資料の発掘、整理を最重要課題とし、これらの存在と保存・保管の意義を包括的なデザイン史を記述することを通して、歴史資料や文化財として価値づけていくものである。すなわち、本研究はそれ自体完了した後も、今後さまざまな視点によるデザイン研究を可能にする「調査フィールド」や「プラットフォーム」の生成につながることを見据えている。研究者:京都造形芸術大学非常勤講師本研究では、1.台湾 台北故宮博物院(絹本画1点)、2.中国 四川省安岳庵堂寺摩崖造像(石刻像1点)、3.中国 重慶市宝頂山石窟(石刻像1点)、4.中国 山西省朔州崇福寺(堂内壁画1点)、5.中国 甘粛省安西楡林窟第3窟(石窟壁画2点)、6.中国 寧夏ウイグル自治区宏仏塔出土画像(絹本画1点)、7.ドイツ ベルリン国立アジア美術館(トゥルファン出土の絹本画3点)8.日本 広島県尾道市耕三寺(宋―95―羅

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