鹿島美術研究 年報第35号
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「浪華名所図屏風」の基礎的研究17世紀の大坂を描いた作例は、大坂城下のみならず、堺や住吉大社、四天王寺をモチーフとするなど複数系統の作例が現存しており、この点から画題の変化や作品間の②「ボローニャ・コープ」「市立中世博物館」蔵 聖母マリアとキリストや聖人、聖トーマス・ベケットなどと共に、アーチの間に様々な楽器を持った天使達がデザインされている。ベネディクト12世からボローニャ修道会に寄贈されたのではないかと、再検討されている。③「トレド・コープ」「トレド大聖堂」蔵 聖母マリアの生涯のシーンと様々な鳥たちに囲まれた聖人や、四天王が餓鬼を踏みつけるように、拷問者を踏む聖人がデザインされている。枢機卿ペドロ・ゴメス・バロソからトレド大聖堂に寄贈されたのではないかと推測されている。以上の作品群を明らかにする研究を継続し、本研究で更に対象を厳選し進展させる。研究者:千葉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程、成田山霊光館学芸員猪岡萌菜筆者の問題関心は、近世前半期の名所図屏風の画題の展開と、作品が何故描かれ、どのような立場・社会的階層の人々に享受されたのか、その受容のあり方を明らかにすることにある。近年、「常陸名所図屏風」(個人蔵)や、「松山城下図屏風」(愛媛県歴史文化博物館)など、近世の名所図屏風、城下図屏風が新発見され、それぞれの地域で大きな話題を集めた。また、2014年には江戸東京国立博物館の特別展「大江戸と洛中―アジアのなかの都市景観―」で「高松城下図屏風」など地方の近世城下町を描いた屏風絵が一堂に会した他、2015年には京都文化博物館で特別展「京を描く―洛中洛外図の時代―」が開催され、従来「大量生産化、定型化」の文脈でとらえられてきた近世の洛中洛外図屏風が大きく取り上げられるなど、近世の作例に注目する視点も提出されている。しかしながら、特に地方都市を描いた作例は、描かれた土地の近世の様子を今に伝える貴重な歴史資料という「語り」に終始しているものが多くを占め、ごく一部のみ調査研究が進展を示すのが現状である。―100―

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