二条城二の丸御殿の内部装飾の全体構想について―廊下杉戸絵を中心に―ができるのではないかと考えている。研究者:元離宮二条城事務所学芸員、関西大学非常勤講師意義本研究では、これまで比較的注目されてこなかった杉戸絵を取り上げることで、御殿障壁画研究の進展に寄与できると考えている。すでに指摘されているとおり、寛永の二条城障壁画制作は、狩野光信の影響下にあった桃山後期の狩野派絵師たちと、探幽をはじめとする新たな世代が参加しており、桃山から江戸への様式の移行を目の当たりにできる現場である。この過渡期の様相が杉戸絵において、どのように見られるかを確認したい。また、幕府の支配が完成を迎えつつあった時期に建造された二条城二の丸御殿が、どのように幕府の権力や支配のあり方を表象していたのかを明らかにするためにも、廊下杉戸絵の調査研究は、他の内部装飾とあわせて欠かすことができないと考える。一方、近年、経済政策の一環として文化財の積極活用が声高に唱えられ、文化財保護法の改正が検討されている中、二条城は積極活用の先端を走る現場となりつつある。二の丸御殿についても、昨年度、御殿内部で雅楽・立花などの「伝統文化」の実演が行われ、その様子が公開された。このイベントについては、熊倉功夫氏が監修をされ、寛永文化という枠組みで行われたものであるが、今後もますます、御殿を積極的に活用することが望まれている中で、寛永当初の二の丸御殿のあり方、その内部装飾の意味を、建築史、美術史諸分野の成果を活用しつつ、その枠組みを超えて、総合的に考察し理解を深め、その成果を世に出すことは意義があると考える。構想本研究は、二条城二の丸御殿の内部装飾の全体構想に迫ることを大きな目的としている。そのために、次の二つの方向から考察を進めていく計画である。第一に、御殿の意匠や技法が棟・部屋ごとの役割や重要性によって階層的に配置されていることを、室外の障壁画、欄間彫刻や金具等の内部装飾も含めて総合的に考察し、その様態を明らかにすることである。本研究は、その一環と位置付けている。第二に、個別の松本直子―105―
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