に注目している。西園雅集図像の近似は、師弟の作品間において時折看取されるが、研究対象となる靄厓系統の作品群にみられる近似性は、必ずしも画系に左右されない点が特徴である。具体的な画家名を以下に列挙すると、青木夙夜(?-1802)、巣見東苑(天明年間に活動)、福田半香(1804-1864)、伊豆原麻谷(1778-1860)、岸連山(1804-1859)と、活動地域、師事した画家にもばらつきがあることが分かる。このような師弟関係に縛られない近似性には、国内の蘭亭曲水図が当初、明代拓本の蘭亭図巻の図像を軌範としていたように、図像継承という行為自体に特別な意味が付加されていた可能性をも想像させ、非常に興味深い。本研究では、まずこの近似性に着目して、靄厓筆西園雅集図とその関連作品とを比較検討し、図像の相違点・近似箇所をまとめる。そののち、各作品の特徴や制作背景を勘案し、一連の作品群の祖本にどういった画家が想定可能か考察する。その成果を基に、靄厓本系統の図像が複数の画家に選択された理由について、図像の特徴や、画家とその周辺人物の思想と関連付けて明らかにする。なお、画家や知識人の絵画観については、江戸時代の文献資料から西園雅集に関する記述を抽出し、彼らの画題認識を実証的に把握するよう努める。本研究は、高久靄厓ら複数の画家らによって、ある程度の人物・景物表現を保持しながら継承された西園雅集図像の一類型を示し、図像受容の様相とその意義を明らかにする点で、従来にはない試みであり、西園雅集を「蘭亭曲水図像に摂取された一画題」ではなく、独立した画題として捉えなおす点に意義がある。次年度以降の研究においては、本研究より得られた、図像展開を理解するプロセスを、他の図像系統を持つ西園雅集図群にも応用することで、国内における画題受容の全体像を体系的に示す予定である。―110―
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