鹿島美術研究 年報第35号
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係が密接な時に鎌倉幕府は政治的にも大きな意義をもつことになる。また、東大寺再興事業において、大仏の両脇に「両界堂」が設置されるが、これは大仏(=昆盧舎那仏)を大日如来とみなす密教的な解釈にもとづくもので、東大寺再興事業の前後頃から見られ出す幕府関連の大日如来造像の背景にも大仏をめぐる事情が作用している可能性を考え、さらに、東大寺周辺で認識されていた「大日如来=天照大神」とともに、「観音供本尊=天照大神」説を勘案すれば、瀧山寺三尊像との繋がりもみえ、本尊の聖観音が頼朝と等身で作られ、像内に頼朝の歯、髪が納入されるなど、瀧山寺三尊像が新しい観点から解釈された。加えて、鎌倉彫刻史上での意義が問われたことは評価でき、財団賞に値すると判断された。また、優秀者には永井久美子氏が選ばれた。永井氏の研究は、紫式部の絵姿において、石山寺起筆説型と教科書掲載型の二つの大きな流れがあるが、この二つの型の間になぜ乖離が起きたかを問い、教育の場でどのような紫式部像が取り上げられたかを追求することで、近代において学者、教育者でなく、文学者像に求められたとするが、紫式部の姿がどのように表現されるかは、過去の問題ではなく、現在にも繋がる問題であることを提示するなど将来性にも富む論考として優秀者に選ばれた。《西洋美術部門》財団賞東海林洋「パブロ・ピカソ1912-1916優秀者川上恵理「ルドルフ2世治世下のプラハにおける芸術運動東海林洋さんの論文「パブロ・ピカソ1912-1916―エヴァ・グエルの肖像を中心に―」は、恋多き画家ピカソが生涯に愛した恋人あるいは伴侶たちの中ではあまり知られていないエヴァ・グエルの肖像を描いた3点の作品、すなわち、ポーラ美術館所蔵の1913年作《葡萄の帽子の女》、個人蔵の1913年~14年作《肘掛け椅子に座るシュミーズの女》、そして宮崎県立美術館所蔵の1915年~16年作《肘掛け椅子に座る女と鳩》を取り上げて分析する。これらは、1912年にフェルナンド・オリヴ―エヴァ・グエルの肖像を中心に―」―バルトロメウス・スプランゲル作《知恵の勝利》の油彩画と版画を中心に―」―17―

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