研究目的の概要①「ティムール・ルネサンス」以降のイランにおける工芸品とペルシア語詩の関係研究者:日本学術振興会特別研究員(DC1)、東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程本研究の目的は、15世紀後半から18世紀初めに至るまでのイランにおいて制作された、ペルシア語詩銘文を有する工芸品の銘文内容と造形表現とを分析し、工人および工人の営為に関する内容を含む同時代ペルシア語・アラビア語一次史料の記述と照合させることで、当該時代・地域における手工業の実態およびペルシア語詩の物質文化への浸透プロセスを明らかにすることである。具体的には、①「ティムール・ルネサンス」の時代以降、すなわち、15世紀後半から18世紀初めのイランに比定される陶製品、金属製品、テキスタイルの銘文(紀年銘、制作地銘、工人銘、パトロン銘)のカタログ・レゾネ(マテリアルからのアプローチ)および、②工人や工人の営為に係わる記述を有する同時代一次史料(ペルシア語およびアラビア語)の集成(テキストからのアプローチ)の作成と分析を最終目標とする。本研究は、「ティムール・ルネサンス」の時代としばしば称されるスルターン・フサイン・バーイカラー(在位1469-1506年)の治世を上限として設定する。彼の治世以降ペルシア語文化圏において盛んに編纂された、詩人伝(tazkira)というジャンルの史料を精査すると、時代が下るにつれ、王族や宮廷周辺の人物に加え、ペルシア語詩の新たな作り手として工人(陶工、金細工師、職工など)が台頭していく様子を窺い知ることができるためである。このような社会構造の変化と対応し、15世紀後半以降、イランにおいて制作された工芸品(陶製品、金属製品、テキスタイル)の銘文中には、聖典クルアーンの言語たるアラビア語の章句(クルアーンおよびムハンマドの言行録)や格言に代わり、ペルシア語詩のプレゼンスが次第に増していく。そのような史的事実があるにも拘らず、今日に至るまで、15世紀後半から18世紀初めに至るまでのイランにおける手工業の実態やペルシア語詩の物質文化への浸透プロセスは未だ解明されていない。―29―神田惟Ⅲ.2017年度「美術に関する調査研究」助成者と研究課題(2018年)
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