与された場合に見いだされる。贖宥は身体的・霊的巡礼を通しても獲得可能であった。実際の聖地巡礼は中世を通して重要な宗教的実践であり続けた。その一方で、15世紀以降、遠方の聖地に赴くことが出来ない修道士や修道女、その他の観想的生活に身を捧げた宗教的共同体に所属する人々や、敬虔な世俗の信者の間で新たな人気を博したのが、遠方の聖地に赴くことなく行われる霊的巡礼である。霊的巡礼とは、一連の勤行と観想によって、遠方の聖地に赴くことなく、実際の巡礼の道程を心的に再構成する宗教的行為である。霊的巡礼は修道院内のみならず、地方の諸聖堂において俗人によっても実施された。そして、俗なる空間を聖なる空間に変換するために諸種の絵画、彫刻、挿絵付巡礼手引書が使用された。聖地への擬似巡礼に加え、南北アルプス地方において顕著に認められる重要な事象が、地方の聖堂に保管されていた聖像(絵画、彫刻)への身体的巡礼である。この場合、奇跡を起こすイメージは巡礼の目的地となり、信者らによる多くの寄進と奉納を促した。本研究の目的は、中世末期から近世初期のネーデルラント、特にフランドル地方において、贖宥獲得、霊的巡礼の実施、そして奇跡を起こし身体的巡礼の原動力(目的地)となったイメージ群に焦点を当てることによって、これまで等閑視されてきた初期フランドル絵画におけるイメージの実践的使用方法と機能を体系的に検証することに存ずる。これにより、初期フランドル絵画における観者と空間の役割が組織的に再考されよう。「イメージの力Power of Image」に関する研究は多岐にわたって行われてきたが、作品の設置空間においてイメージの機能を発動させるため、観者が果たした役割(宗教的・道徳的行為)、即ち「観者の力Power of Audience」に関しては十分な関心が払われては来なかった。本研究の第一の意義は、中世末期における救済システムにおいて、イメージと観者の双方が果たした役割に着目することによって、「イメージの力と観者の力Power of Image and Power of Audience」を新たな研究分野として提示することにある。更に特定のイメージによって聖なる空間へと変化された場を考察することによって、「現実」と「仮想現実(virtual reality)」、或は「聖なる空間」と「俗なる空間」の概念と、それらの構築のためにイメージが果たしていた役割が再考される。15世紀から16世紀前半の低地地方において、「現実」と「仮想現実」の差異は何処にあったのだろうか。世俗の空間を聖なる空間に変換するため、如何なる絵画、―32―
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