鹿島美術研究 年報第35号
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③明治・大正期の日本の輸出植物とジャポニスムに関する調査研究装飾写本、版画、彫刻が、如何にして使用されたのだろうか。そして信者は、それらのイメージを用いて如何なる勤行を行ったのだろうか。これらの問いに答えるため、本研究を実施する。研究者:ポーラ美術館学芸員本研究の目的は、筆者がこれまで行ってきた明治期の殖産興業政策としての植物輸出とジャポニスムとの関連性をより明確に提示することである。『近代画説』(第23号、2014年、明治美術学会)上にて発表した拙稿「明治期における園芸振興と日本植物ブーム」では、植物輸出が振興されていた事実を、明治期の国内外博覧会での出品状況の調査により明示し、明治期輸出工芸品の図案として描かれた植物を検証することで、輸出植物がジャポニスムに影響を与えた可能性を指摘した。しかし、現段階では日本国内で生産された美術品と輸出植物との事例検証にとどまっており、今後、ジャポニスムのより広範な分野における輸出植物の影響関係を実証することで、ジャポニスム研究にさらに大きなインパクトを与えることが出来ると考えている。そのための土台となるのが、各輸出植物の輸出年代・輸出先の国(地域)、輸出量といった基本データである。特に、植物の場合は美術品・工芸品とは大きく異なり、残されている現物の調査は難しく、現地の環境に馴化してしまっている植物も多い。これまでの調査で、美術分野ではもちろんのこと、園芸や植物研究の分野においてさえも、近代日本における殖産興業政策としての植物輸出に関する研究はほとんどなされていないことが分かった。植物輸出の歴史構築と基本データの欠如は、これまでジャポニスムと輸出植物との関係性が十分に指摘されてこなかった要因の一つでもある。花目録(園芸・種苗カタログ)等からの詳細なデータの収集は、いまだ基本データの出揃っていない「殖産興業政策の一環としての植物輸出」研究に一層の説得力を持たせると同時に、今後のジャポニスム研究に対して大前提としての基本データを提供することが可能となる。また、これまでの研究では欧米のジャポニスム作品に具体的に表れた輸出植物を検証するには至っておらず、各輸出植物の基本データを生かしながら、モネやガレといった植物・園芸愛好と密接に関わりのあった作家の作例と輸出植物との関連性を指摘することで、「日本植物ブームとジャポニスム」という新たな研究視座を築山塙菜未―33―

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