⑯池大雅と「文人画とは何か」の研究数多くの伝本、改作元となる鎌倉時代物語、異本や後の影響作品など様々な資料にあたることが重要である。未紹介伝本を紹介するにあたり、そうした国文的な分析に加え、絵についても丁寧に紹介し、その技法、表現、様式をとらえるなど美術史的な分析も行い、本文と絵の差異や相互関係を明らかにし、文と絵の双方からその伝本の位置づけを試みる。具体的な作例としては『賢学の草子』、『文正草子』、『四十二の物争ひ』の調査を行っていく。特に『賢学の草子』は、『道成寺縁起』の異本であり『日高川草紙』とも呼ばれる一群の作品がある。内容の変化も見られ、芸能との関わりも深い。物語に付随する縁起的性格などの内容が絵画とともにどのように変化し、広く普及していくのか、絵画における物語の特徴とともに明らかにしていく。次に、現在調査を進めている『大織冠』についても研究を深めていく。『大織冠』は、幸若舞曲の中でも謡曲、浄瑠璃、歌舞伎、屏風、絵巻、絵本、版本、黄表紙、浮世絵等の様々なメディアにとりあげられ、絵画化された作品である。特に江戸時代初期に「舞の本」の版本が刊行されたことにより物語は広く普及し、享受されていった。これまで泉万里氏による屏風作品の変容や、メラニー・トレーデ氏による詳細な研究が上梓されている。しかし、絵巻や絵本などの小画面における絵画化について、その後の浮世絵作品にまで視野を広げた研究はまだ多くの課題が残されている。そこで、多くの作例にあたり、小画面絵画における図様の普及と定型化、他メディアの要素の吸収、影響関係について検討していく。詞書を持たない屏風作品等と異なり、絵本や絵巻は文と絵を併せ持っており、その相互関係を詳しく検討していくことも小画面における絵画化の特性を明らかにするために重要である。お伽草子の絵画作品は多く現存するものの、その紹介、研究は未だ十分とはいえない。お伽草子の制作背景や受容について把握するためにも、一つ一つの作品を地道に調査し、文と絵の双方に注目して分析していくことが、お伽草子研究のさらなる発展につながると考える。研究者:関西大学大学院東アジア文化研究科博士課程後期課程池大雅は文人画家の大成者と考えられているので、彼の研究についての参考文献は―50―KARAVAJEVA JULIJA
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