その中でも特に、画家アンリ・マティスの息子、ピエールが1931年に創設したピエール・マティス画廊は、戦前戦後のニューヨークにおけるアートシーンを支えた重要な拠点として知られている。本研究は、ピエール・マティス画廊の1940年代に注目し、ヨーロッパの画家とアメリカの画家との間を媒介する存在として、同画廊がいかなる働きを担っていたかを明らかにすることを目的としている。それは、戦後アメリカ美術が世界的な覇権へと至ったプロセスを、美術の現場から紐解く、新たなアプローチとなると確信している。構想現在、ピエール・マティス画廊に関する一次資料は、ニューヨークのピアポント・モーガン・ライブラリーが所蔵している。同館は2002年にこの画廊に関する展覧会を開催しており、その際発行された展覧会カタログ(Pierre Matisse and his artists, Pierpont Morgan Library, 2002)には、ピエールが所蔵していた絵画の他、1931~89年の展覧会歴が収録されている。本研究における基礎文献として位置付けられる資料である。その他の先行研究として、マティス親子に関する伝記(John Russel, Matisse father & son, Harry N. Abrams, INC., Publishers, 1999)や、ピエール本人による自伝(Pierre Matisse, A memoire the missing Matisse, Tyndale Momentum, 2016)があげられる。これらの資料はピエール自身や彼の画廊の全貌を知る手がかりとして重要である。しかし、いずれも通史的な側面が強く、1940年代の亡命芸術家とアメリカの画家との交流に焦点を当ててはいない。そうした研究は管見の限り存在しないことから、本助成によってニューヨークに数週間滞在し、モーガン・ライブラリーを中心としたアーカイブに保管されている一次資料の調査が可能になれば、第二次大戦中のニューヨークにおける美術状況を現場レベルから検証するための礎を築くことが可能となるだろう。―61―バルテュス《ピエール・マティス》1938年、メトロポリタン美術館ピエール・マティス画廊
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