鹿島美術研究 年報第35号
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近代日本における女性画家の活動・交流およびその展開に関する研究地方風俗や戦場などを扱い、それまでの浮世絵版画に代わるような写真を残している。凌雲閣における美人コンテストでの肖像写真を撮影、それを基にした写真帖は国内外に向けて製版・販売した。画家の黒田清輝とも交流を持ち、当時の美術制度および大衆芸術の両分野に深い関わりを持つ一眞であるが、岡塚章子氏らの先行研究で活動の全体が明らかにされているものの、これまで個々の写真の美術史的検証はほとんどなされてこなかったといえる。今、周延の浮世絵版画と一眞の肖像写真とを比較することは、浮世絵というものに明瞭な輪郭を与えるとともに、写真の発達によってうつろっていった人々の視覚世界の在り様を捉えることができるだろう。研究者:東京文化財研究所アソシエイトフェロー本研究は近代日本における女性画家の活動や交流を、歴史的な展開を踏まえて明らかにし、その上で既存の近代美術史に新たな視点を提示することを目的とする。先行研究と問題点、および研究の構想日本の女性画家に関する研究は、これまでにも多くなされて来ている。早いものでは昭和33年に発表された関千代氏による上村松園研究(注1)があり、昭和50年代には奥原晴湖や野口小蘋に関する研究も現れはじめる(注2)。他方、昭和36年には日本橋・高島屋にて「近代百年を彩る女流画家展」が開催されるなど、女性画家に関する展覧会は早くから開かれている。そうした女性画家研究に新たな展開が訪れたのは、昭和末年、海外からフェミニズムやジェンダーの理論がもたらされたことによる。昭和60年に刊行された若桑みどり氏の『女性画家列伝』をはじめ、平成初年には美術史学会にてフェミニズム美術史の研究会が開催され、各地にてジェンダーの視点に立った展覧会が開催された(注3)。また、平成6年に刊行されたパトリシア・フィスター氏の『近世の女性画家たち美術とジェンダー』により、近世の女性画家にも光が当てられ、その研究は近年の仲町啓子氏を中心とした研究へと引き継がれている(注4)。近代の女性画家については近年、小川知子氏により、島成園を中心とする大阪の女性画家に関する研究が進められた(注5)。さらにまた、大正期以降に女性画家たちが結成した美術団体や、女性が絵を学ぶための教育機関、近代以降整備された―75―田所泰

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