展覧会などの制度に関する研究も、主にジェンダーの視点から進められている。このように、女性画家の研究はこれまで、個々の作家研究はもちろん、女性画家を総体的に捉えた視点からの研究も多く行われてきた(注6)。しかしながら、現在の女性画家研究には、以下のような問題点や課題もある。①研究対象とされる時代やジャンルにおける偏向これまでの女性画家研究では、それぞれの時代やジャンルによって、研究状況に差が認められる。時代について言えば、近世の画家や大正期、戦前戦後をとおして活動した画家については、多くの研究がなされている一方、明治期に活動した画家については、奥村晴湖や野口小蘋、上村松園など、特定の画家個々の研究が進められているのみで、他の画家の掘り起こし作業や包括的な視点からの考察は行われていない。またジャンルでは、特に近・現代において、日本画家よりも洋画家を対象とした研究が多く行われている。こうした傾向は、伝統的にお稽古事として女性も学ぶ機会の多かった日本画に比べ、西洋から新しくもたらされた西洋画は男性のものと見なされたため、女性がそれを学ぶことはより困難を極めたというジェンダー的な視点に依るところが大きいように思われる。また日本画家の研究も、晴湖や小蘋を除いて、いわゆる「美人画家」と呼ばれる画家が多く取り上げられてきた。実際に女性画家の中には「美人画」を得意とする者が多く、女性画家にはなぜ美人画家が多いのかといった問いもしばしば聞かれるものである。しかしながら、明治40年頃までは人物よりも花鳥を得意とする女性画家の方が多数であり、女性画家=美人画家という傾向が強まったのは大正期以降のことである。したがって、近世から近・現代への移行期である明治期を中心に、大正期へと至る展開を見据え、画題を問わず日本画家を中心とした、女性画家の研究が必要であると考える。②女性画家同士の交流に関する研究大正7年に結成された女性洋画家の団体・朱葉会以降、女性画家による団体が数多く結成された。そうした団体の存在は、すでに吉良智子氏などにより明らかにされており、またこうした活動が女性画家たちのネットワークを強める働きをした可能性も指摘されている(注7)。筆者も大正期に活躍した女性画家である栗原玉葉の研究を通して、女性画家たちの交流のようすを、わずかではあるが垣間見ることが出来た(注8)。しかしながら、こうした女性画家同士の交流に関する研究は、個々の作家研究の進度に比べ、あまり進められていないのが現状であり、とりわけ明治期の女性画―76―
元のページ ../index.html#91